Memory of a crocus

□9 探し物
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どたどたと廊下を走り回る音と、楽しそうな話し声で目が覚めた。
古びたドアを開ければ、子供たちがちょうど部屋の前を横切る。
いつもその後をグレゴリーさんが掃除をしながら追いかけていくのだ。

……あれから数日がたってしまった。ここに住む変わった住人たちは、もはや日常となりつつある。
その中で、私はひたすら図書館に通い続けたが、これといって見つかるものはなかった。

あの後、テレビフィッシュを見たことをネコゾンビに報告した。
彼曰く、あの魚は自分の記憶しか映さないらしい。
なら、私にはまだ何か思い出す必要がある。

いつものように食堂で食事をし、今日は例の白い花を見ようかと中庭に出た。
冷たい空気が体を包み込む。
花壇の隅には、前と変わらず白い蕾がそこにあった。
前より少し大きくなった気がする。もしかしたら、もうすぐ咲くかもしれない。

「……あ、彩雨さんだ」
「ロストドール……」

花の陰で、ロストドールがバラを眺めていた。
そばにある人形を見ると、なぜか目が合っているような気がする。
不思議だと思いつつ見ていると、突然人形が口を開いた。

「アンタ、今ただの人形だと思って見てたでしょ」
「喋った……」
「あ、ケイティが久しぶりに喋った」

人形……ではなくケイティはこちらを睨みつけ、口だけを動かして喋っている。ちょっと怖い。
彼女はどうやらそのときの気分で喋っているようだ。

「咲かないね、この花」
「そんなちっちゃな花に興味あるの?」
「ケイティ……そんな事言わないの」

しばらくどうでもいいような会話をして、私はこの場を立ち去った。


のんびりとホテル内を歩いていると、ロビーまで来てしまった。
ホテルと外を繋ぐ大きな扉が目に入る。
最初の日から、ここの扉は開いていない。
……私がここに来た時を思い出す。
何かに吸い寄せられるようにその扉に手をかけた。

「何をしているのですか?」
「…………」

ロビーで何かを書いていたグレゴリーさんに声をかけられる。

「このホテルから出ても、帰ることなどできませんよ」
「わかってます」

短く返事をして、扉にかけた手をはなす。
グレゴリーさんは興味なさげな顔をして仕事に戻った。

……どこからかカクタスさんの悲鳴が響く。
きっとまたジェームスたちのいたずらに引っかかったのだろう。
しばらくすると悲鳴は聞こえなくなり、あたりはまた静寂に包まれた。

帰ることなどできない……か。
目の前にある扉の隙間からは冷気がわずかに漏れ出し、開かれるのを拒んでいるように見えた。
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