デビルマン

□バレンタインのためだけに
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明日はバレンタインだ。本当は聖ウァレンティヌスが殉教した日だが……。まあ、そこは俺には関係ないから良いとして。
折角のバレンタインだ。明に作りたい。明のために作りたい。そうとなれば、まずは何を作るか、から始まるな。簡単で直ぐ出来る物と言えば……パウンドケーキやクッキーか。別にチョコじゃなくても、気持ちが籠っていれば良いんだ。そうとなれば、パウンドケーキだな。明、好きだと良いけどな……。
俺は材料を買って来て。混ぜたりして、型に流し込んだりして、焼いていた。そして焼き上がって。袋に詰めて。これで準備は良いな。後は明日になって渡して……。
ふと俺は、牧村美樹の存在が引っかかった。奴が居ては、渡せられないのでは?奴は明とずっと居る。それでは、二人きりになれる時間も場所も、あまりないのでは……?……明を、何処か公園とかに誘い出すしかない、か。


そして次の日になって。俺は明が通ってる学校の前で、待っていた。
「!了」
「明……」
明は紙袋を持っていた事に、俺は気づいた。しかも中にはラッピングされた箱が幾つも……。少しだけだが、苛ついた。たとえ本人がその気がなくても、俺は嫌だ。
「ちっ……」
「?了。どうしたんだ?」
「……あれ。お前、今日はあの女とは一緒じゃないのか?」
いつもの様に、隣に居るかと思ったら居なかったので気になった。
「ああ、美樹ちゃんの事か?今日は家に誰も居ないから、晩飯の仕度をするとかで、先に帰ったぜ」
「そう、か……」
好都合だな。これならここでも渡せられる。人が見ていようが、俺には関係ない。
「明、これを」
「え……?」
俺は小さな袋を、明に渡した。
「何だい?」
「今日、バレンタインだろ?お前の為に作ったのさ」
「了の手作り?わぁ、すごいな。ありがとう」
笑顔でお礼を言われてしまっては、俯くしかないじゃないか……。お前の笑顔は、大好きなんだから。
「……すまない、大して甘くないかもしれん」
「良いよ。了が作ったものなら、甘くても甘くなくても。それに、俺、そこまで甘いのは無理だしよ」
それを聞いて俺は、安心していた。何せ初めて作ったに等しいからな。甘さの分量とかも分かっていない。だからそんなに甘くないのだ。
「……その紙袋の中身、大体はチョコなのか?」
「ああ。だから少し困っててさ……。まあ、折角貰ったから、何とかして食べるさ」
そんなもの捨ててしまえ。と言いたいところだが、良い雰囲気を壊したくないので俺はぐっと堪え、苦笑いで返した。
「そうか。なら頑張れよ」
「おう。……あ、了。今ここで食っても良いか?」
「別に構わないが……」
ただ、少し恥ずかしい。明からの感想が聞けるのは良いが、出来はあまり良くない。甘さが足りなかったからな。
「じゃ、いただきまーす」
明の食べる姿さえ、可愛く見えてしまう。俺は明の全てが好きだから。どんな明だって、好きなんだ。だから、今が幸せだとも感じる。
「……ん、美味いよ、了!すっごく美味しい!」
「明……」
「俺、幸せ者だな。こんなに美味しい物を、大切な親友から貰って食ってるなんて。本当ありがとな」
親友……。その言葉が、胸にちくりと刺さった。本当は恋人と言う関係になりたいが、鈍感な明を落とすのは困難だろう。
「良かったよ、お前が喜んでくれて」
「へへ、おう」
笑顔の明。ああ、本当に好きだ。可愛い。守りたくなる。
「今度さ、一緒に何か作ろうぜ?俺、お菓子なら大体作れるからさ」
「いつの間に……」
「美樹ちゃんが色々作ってるから、それの影響でさ。今度お前の家に行っても良いか?」
「ああ、構わないよ。いつでもおいで」
「ありがとな」
そして明とは別れた。

明の笑顔が、瞳から離れなかった。好きで、たまらなくなる。触れたい。明に。唇に、頬に、身体に。……だが叶わぬ願い。そう、あいつから見たら、俺はただの親友。牧村美樹が居るせいで俺は、それ以上の関係を持てない。
「奴さえ居なければ……」
はっ。俺はバレンタインの日に、何て事を思ってるんだ。今日ぐらい、邪神は消そう。明の為にも、な。









END

 

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