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□勘違いしないで(イザシズ()
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それは、静雄が夕方と仕事を終えて帰ってきたときだった。
着信音。
(臨也か…)
池袋では敵だが、また恋人でもある臨也は、静雄が仕事から帰ってくると決まってメールをよこす。べつに頼んだわけでもないのだが、今では静雄の楽しみにもなっている。
《シズちゃん、仕事お疲れ〜☆ 今日もシズちゃんのせいで病院送りになった人がいるそうだねぇ!ほんと、同情しちゃうよ?w(笑)そのバカ力もっとほかのとこで役だてたほうがいいんじゃない〜www》
いつものウザヤぶりだった。
そして返事は決まっていた。
《うるせぇ、死ね》
それが毎日の日課だった。
しかし、今日は違っていた。
《会いたくない。しばらく来ないで。》
「…は、…」
思わず吐息がもれる。
静雄は最初その文字は見えても、意味が理解できなかった。
会いたくない。
その言葉が、鉄の杭のように深く心に突き刺さる。
(なんでだよ…俺、何か悪いことしたか…?あいつ、俺のこと嫌いになったのか…? 新しい恋人でもできやがったのか?)
考えだしたら止まらなかった。
(臨也のとこで働いてる女と…)
静雄はきれいに染まった金髪を、ゆっくり振った。
もう帰ろう。そう思ったはずだった。
しかし、目の前には、臨也のマンションの扉があった。
(俺、変だ…)
ノミ蟲、いるかと声をかけると中から急いで駆け寄ってくる足音が聞こえた。
ガチャ
「…シズちゃん?」
「なんで、あんなメールよこしやがった。」
静雄が、横を向いて気まずそうにつぶやくと、臨也の口元が少しゆがんだ。
静雄には見えていないのだが。
「まぁ、せっかく来てくれたんだし、入ってよ」
臨也はそういって、ドアを開けたのだが静雄はそれを遮るようにつづける。
「…俺が、その、嫌い…なのか?」
声が震えていたかもしれない。うつむいて、臨也と目を合わせようとしなく、顔は赤く染まっていた。
(シズちゃんてば…かわいすぎ…)
「違うよ。」
「なっ…イザ…んんっ」
唇にやわらかい感触がして、ちゅっとリップ音が響いた。
一瞬の短いキス。
ぽかんとして、静雄は臨也を見た。何が起きたのかすぐには分からないほど、頭が混乱していて。
ようやく臨也からキスされたんだと分かった時には、顔はこれ以上ないほど真っ赤に染まっていた。
「な、なにしやがるっ!」
それだけ言うのが精いっぱいだったのだが、臨也は自分より背の高い静雄を、上目使いでみ上げたまま話し出した。
「シズちゃん、仕事終わったらすぐ家に帰っちゃうんだもん。だから…」
「だ、だからなんだよ…?」