雪華

□弐rin
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朝 いつものように目覚まし時計のアラームで目を覚ます。



ゆっくりと手を伸ばし、アラームを切るとズッシりとした重みに顔をしかめ、布団をめくると

昨日初めてみたあの人が古市のお腹にがっしりと引っ付いていた。







「っ………!!!??」







声になっていない言葉を叫びながら、思わずその人をベッドから蹴り落とした古市は

ムックリと起き上がるその人を指差し 口をパクパクしながら絶句。





こんなにも眠気が一気にぶっ飛んだのは、いつ以来だったろうか。






その人物は、昨日 学校で男鹿をコンクリートの地面に片手一本で減り込ませた 折那だった。






「ん……、おはよう古市くん …」





「っ……なんでここに…!!」





ムクリと、体を起き上がらせると、首を傾げる折那







「ん…覚えてないの?昨夜のこと」





「さ…昨夜…?」




そういわれて、昨日の夜のことを思い返してみるが、どうにも彼がいた覚えが全くない。




彼はどこからか出してきた昨日彼が羽織っていた黒いコートから懐中時計をだし、あくびをした。



「いや、それならいいけど 古市くん
学校の時間はいいのかい、その目覚まし時計 遅れてるみたいだよ」








「え?まじかっ!!」



やっべ といい服を着替え出す古市くん

ベッドに座りこみ、その様子をじっとみつめる。



朝の日を浴びて輝く銀色の髪に、白い肌と、
それに見合う細い身体

男鹿とは全くと言っていいほど正反対だった。




 普通の人間だ………。







「あ、ねえねぇ、古市くん 俺と契約しない?」




「ぶっ!? だ、だから しないですって」




朝ごはん食べる?みたいなノリでとんでもないこと言わないでくださいと言う古市をにっこりとみて、真剣な声色で問う。





「――条件付きでもいいよ、って 言ったら…?」






「―――条件付き?」





カッターシャツを羽織り、制服のズボンをはく古市は その手を少し止めこちらをみた。



「…一生 君に付き従う、なんて…」






くすりと笑いながら提示されたその条件に
古市は思わず固まり、折那を凝視した

戸惑いを隠せずに なんとか言葉を紡ぎ出そうとするが、言葉がうまく引き出せない





「………え、と…」





困ったようになんとか口元をひきつらせ笑う古市を じっと貼り付いた笑顔のまま見つめる折那

古市はやがて軽く息を吐いた





「……もし…オレと契約して、なにがしたいんですか?
条件付きを飲むわけじゃないですけど、
ヒルダさんは、悪魔が人間界で魔力を解放するために触媒となる人間が必要だから契約するんだって いってました。
けど、………折那…さん は、 契約しなくても強そうだし…強くもないオレが触媒になれるわけがないし、契約しても難点しかないのにどうして俺と契約したがるんですか?」





古市の将棋来なはっきりとした言葉に、折那は平然とした面持ちでゆっくりと答えた。



「……さぁ、どうしてだろうね…。
確かに、古市くんの言うとおり、
俺は魔力を使わなくても強いから 坊ちゃんのように力解放のための触媒は非常時を除いては必要としない。」





「なら、どうして…」






「…………餌が……」




「え?」





「―――っ あ、あ……いや…
…古市くん、時間はいいの?」







ちらりと時計をみて、古市くんは学生服を慌てて羽織り慌ただしく部屋を出ていった。


折那は微笑みながらそれを見送ると、ガリッと 親指の付け根を噛んだ。





    ―――餌が 欲しいんだよ……――






ちがうちがうんだ、要らない


そんなものは いらない、


……いらないものだ。









…もう …… 失いたくはない…





じわりと白い手袋に赤が染み込んでいく。
 
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