漢方屋。

□三花紗
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「金髪美女?」




「そうっ 才蔵ったら浮気してたんだよ…!?」





その日の昼下がり、羽翼の自室の前の縁側に座っていると、
どかどかと現れた伊佐那海がその隣を占拠し、涙目で
「才蔵ってば金髪美女と浮気してたのよ!?」と、大声でまくしたててきた。






「ウーン、それは許せないなぁ…
――そうだ、僕が才蔵に嫌がらせしてあげるから それで許してあげてくれる?」




「――…嫌がらせ?」





「うん、特別調法の漢方茶飲ませてあげる」






―――――――――――――






「お茶淹れてきたよ」





「わーい、羊羹!」



「ほう!久しいのぅ」




「今日は羽翼が用意してくれました」



「どうぞ、真田殿」



「うむ」




ひとつの部屋に全員が集まると、
朝に買ってきた羊羹を食べることになった。

羽翼がここ上田城にやってきてから、
六郎がいない間のお茶は羽翼が淹れることになってきた。
朝には漢方茶 他には羽翼が地方旅で養った
茶の種類をあれこれと細かく工夫して煎れている。



「おいしー!羊羹って久しぶりに食べたー!」



「佐助、どうぞ」



佐助の傍に切り分けた羊羹とお茶を差し置いた。




「…ありがとう …」



「どういたしまして」



最近、佐助は気付いたことがある。
羽翼は、”ありがとう“という言葉に
心から喜びを感じているらしい。

そういうことが好きなのかと思っていたが、
朝に漢方茶を出し“ありがとう”と言われるのに
あの心からの笑顔はみせないのだ。


(―――何故?)



(…佐助、不思議そうな気持ちになってる…)




「…佐助、どうかした?」



「い、否…」



「そう……」



(我 勘違い…多分……)




「はい、才蔵 」


「…あぁ」




「………………。浮気はいけないよ?」




「ゴフッ なん…っ!苦…っ シブ…ッ!?」




「ふ…ふふふふっ!」




笑いながら立ち上がり、手拭を畳に被せ才蔵から逃げるように佐助の後ろに下がる。




「っめぇ!殺す…!!」 



「ははは!医者に向かって殺すだなんて…!」



「るっせえ!藪医者!!どけ甲賀猿!!」




「ふふっははは!」




さぁ、佐助を巻き込んでの鬼ごっこが始まった
あちらとは違い、ほのぼのとした部屋

幸村が茶をすする音がした。




「――羽翼はお茶目じゃのう…」


「…畳が……っ」



「………」



(……羽翼さんのあんな笑い方 はじめて見た…)





   
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