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□サクラ・サクラ
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いつもいつも付き纏い、ルーシィを恋敵と呼び、自分との妄想の世界に浸っては、訳の分からない事を言い出す。

正直鬱陶しいと言うのが、ジュビアに対するグレイの素直な感想だった。

その後、数々の試練を乗り越える内に、本当は仲間思いで、自らを犠牲にしてまでも仲間を守る一面や、敵にさえも思いやる魔道士だと知った。




目の前でスヤスヤと眠るジュビアを間の前に、グレイは小さくため息を漏らすとジュビア額に掛かった前髪をそっと指で整える。


ジュビアが眠り続けて一ヶ月。


「ジュビア・・・」


問いかけには当然返事は無く、静まり返った医務室は酒場からの雑音が遠くで響いていた。


「グレイ、仕事行く時間だ!」

コンコンと小さなノックの後に開かれた扉から、エルザが顔を出すと、グレイは頷くと、扉へと向かった。


外に出ると、暖かな日差しが差し込み、事件があったときは満開だった桜の木には、青々とした葉がつき、ゆっくりと風に揺れていた。


血に染まるジュビアを見てから、己を責め続け、食事すら摂ろうとしなかったグレイを半ば強制的にジュビアから引き剥がし、日帰りで行ける仕事を選んでは、ギルドの外へと連れ出していた。




---

「ったく、いつまで寝てやがる・・・」
「もう、1ヶ月は眠り続けてるよね・・・ジュビア大丈夫かな・・・」

以前医務室で眠り続けるジュビアを見下ろしながらガジルがボソリと呟く。
相変わらずな言い方をするガジルだが、その表情には心配の色が濃く滲み出ており、ジュビアを見下ろすガジルの表情を見上げながらレビィが呟いた。


「何か、変な術でも掛かってるんじゃねーのか?」

1ヶ月も眠り続けるのは余りにも不自然で、何だかの要因があっての状況ではないかと思いたい。
もし、何だかの要因で目覚めないのならば、その要因を取り除けばジュビアは目覚める筈。

しかし、ジュビアの状態はただ眠っているだけ。

それ以外は、何の異常も見当たらず、お手上げ状態だった。


「ジュビア、そろそろ起きたらどうだ?」

そう言いながらガジルの相棒であるリリィはペチペチと肉球でジュビアの頬を軽く叩く。


調度その時、ジュビアの睫が微かに震えると、ゆっくりと目が開くと、ベッドに上がっていたリリィと、そのすぐ傍で自分を見下ろすガジルとレビィを交互に見上げれる。

「ジュビア!!」
「おい、気分はどうだ!!」
「ったく、心配させやがって・・・ギヒッ!」

其々がジュビアの顔を覗き込みながら声を駆けるが、次の瞬間、喜びを纏った空気を一気に凍らす言葉がジュビアから放たれた。


「あの・・・どちら様でしょう・・・」


一瞬にして凍りつく空気。
呆気に摂られる2人と1匹に対し、ジュビアは起き上がり首を傾げた。


「と・・・とにかく、ジュビアが目覚めたことを皆に伝えてくるね!!」

レビィは固まった頭をフル回転させ、やっとの思いでそう伝えると、バタバタと医務室を後にした。



「解離性健忘だね。」
「カイリセイケンボウ???」
「あぁ、つまり“記憶喪失”ってわけさ。」

ギルドのメンバーが見守る中、ポーリョシカが下した診断は記憶障害。
診察時に、簡単な質問を行った結果生活に必要となる記憶は残っているが、ギルドのメンバーや自身の事は記憶から消え去っていた。
そして、魔力も回復しているにも関わらず、魔法を使うことも自分を水に変えることも出来ない、ただの人間となっていた。

「あの・・・ジュビアの記憶は戻りますよね?」
「恐らくはだがな。」

それが明日なのか、来週なのか、一ヵ月後なのかは定かではない。
その場に居た誰もが不安に思っていることを恐る恐るミラがポーリョシカに確認する。


「今は、無理に思い出させる必要も無いと思うがね。何だかのショックを受けてのこの状態なんだろう?」
「恐らく・・・詳細は分からないのですが・・・」
「ならば、それより先にリハビリをして通常の生活が送れるようにしたほうが良いと思うがな。」

そういいながらポーリョシカはジュビアの腕を手に取り、筋肉が削げ落ちた腕を優しく撫ぜる。
寝たきりの状態が続いた場合、一般的には3週間では60%の筋肉が落ちるといわれている。

1月もの間、眠り続けていたジュビアも例外ではなく、元々細身だった体はより細くなり、ベッドに座るだけでも辛そうな表情を見せていた。

「今は無理に頑張らなくていい。ゆっくり時が解決してくれることもあるさ。」

不安そうな表情で自分をみつめるジュビアに微笑みながらそう伝えると、ジュビアの手を優しく握り締めた。

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