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□鈍感男の恋愛事情
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あぁ、これは重症だとロキは思った。
先ほどからロキの隣で時折大きなため息を繰り返しながらグラスに注がれた琥珀色の液体を飲み干すグレイ。
2泊予定で少し遠方まで仕事に出ていたグレイが戻ってきたのが、1日予定がずれ本日の夕方。
本来であれば、昨日の夕方にはギルドに戻ってくる予定が、1日延びてしまった。
それは仕方が無いことだが、本日の昼前にジュビアはガジルと共に4泊予定での仕事に出かけていた。
「・・・グレイ、想像はつくけどどうしたのさ?」
「お前って、何人くらい経験ある?」
「ずいぶんと唐突だねグレイ。」
質問した内容とかけ離れた内容の質問返しにロキは思わず苦笑する。
カレシにしたい魔道士ナンバー1のロキの浮名は数知れず。
ロキは空っぽになったグラスを握り締めていたグレイにメニュー表を手渡しながら『おぼえてないや』と返答する。
そんなロキの返答を想像できていたのか『お前らしいよな』とグレイも苦笑した。
「んで、グレイの深い深いため息の原因は、ジュビア?」
「なんか、適わないなぁ〜って思ってさ。」
「ジュビアに?」
「あぁ。」
「ジュビアと何かあったの?」
普段グレイからジュビアを話題に出すことは珍しい。
長年、ジュビアの片想い時代から応援をしてきたロキとしては、今2人がどうなっているのかじっくりと話しを聞きだしたく、グレイを促した。
「危なっかしくて、守ってやりたいって思っても、俺の前に出て行くし」
「んで?」
「あんな細いからだで、壊れちまうんじゃないかって・・・大切にしてやりたいのにさ・・・」
「ふうん」
「けど、好き過ぎて、いつか壊しちまうんじゃないかって思うと恐え。」
「けど、ジュビアを求めちゃうんだ。」
2人が晴れて付き合いだしたのは1月ほど前のこと。
ジュビアの決死の告白の末、とりあえず付き合うという流れになったことをロキはジュビアとグレイそれぞれから個々に聞いていた。
嬉しそうなジュビアと反面して、どうしたらいいのか分からないといったあまり乗り気ではなかったグレイ。
その時の状況を思い出してロキは軽い悪戯心が芽生えた。
「グレイって、付き合う時はあまり乗り気じゃなかったのに?もしかしてジュビアの身体が目的だったとか?」
もちろんグレイがそのような男ではないことは知っている。
過去にグレイと付き合った女性達は、グレイのビジュアルやステータスに憧れ近づく女性が大半。
そのような女性達に対しては、グレイもそれに合わせた付き合いをするが、ジュビアに関しては、今までの女性とは違うことをグレイも重々承知していた。
それだからこそ、ジュビアの気持ちに気付きながらも周囲がヤキモキする程までにハッキリとした態度を取れなかった原因がそこにあった。
「それは、違う。」
そんな関係ならどれほど楽か。
そう付け足したグレイは大きなため息を吐き出した。
「もう4日もジュビアと会って無いもんね、グ・レ・イ」
「・・・」
「そして、その愛しいカノジョは今は他の男と一緒にお泊り♪」
「・・・」
「今までのジュビアの気持ちを体感できる良い機会だねグレイ。」
ニヤリと笑うロキにグレイは返す言葉が見当たらず、引きつった顔をロキへと向けた。
いくら酔っ払っているからといっても素直ではないグレイの事。
ロキの言葉に『会いたい』など言い出す事は無く、向けようの無い心のモヤモヤを抱え3日間過すのだろう。
そう思っていたロキの読みが見事に外れる。
「あいつに触れたい・・・」
「えっ?」
酒のチカラは偉大である。
グラスを持っていない、開いた左手をじっと見つめるグレイ。
きっと1日でも早く、愛しい恋人を腕の中に閉じ込めたいのだろう。
過去に聞いたことのない、グレイの盛大な惚気を聞かされたのだ。
どこか他人とは距離を置く傾向にあったグレイだが、ジュビアの存在が想像以上に大きくなっていることにロキは驚くと主に、心の中でジュビアに『よかったね』と呟いた。
「グレイ、ジュビアが行っている現場の近くの仕事が今朝リクエストボードに貼りだされてたよ。」
「えっ?」
「最強チームにピッタリな内容だと思うんだけどな。」
見てきなよとロキに促され、グレイは足早にリクエストボードへと向かっていった。
これで、グレイがジュビア不足をムラムラと過すのではなく、仕事に集中し、おそらく予定より1日は早くジュビアと合流できるだろう。
今夜は最高の肴と共にお酒を楽しめたよ、ジュビア。
一途な少女の願いが本当の意味で叶った事を、グレイによってからのグラスと小さく乾杯し、残っていたアルコールを一気に飲み干した。