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□サクラ・サクラ
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-マイチルサクラ-
ヒラヒラと舞散る桜の花びら。
薄紅色の花びらがジュビアの身体に落ちては、ジワジワと赤く染まる。
ゾクゾクと不愉快な寒気がジュビアを襲っては、自ら流した血の温かさが肌を伝う。
徐々に途切れ始めた意識の中で、ジュビアは目の前で有終の美を飾るサクラの花ビラに自らを重ね合わせていた。
「このサクラは・・・まるでジュビアの・・・ようです・・・」
遠くで誰かが自分の名前を呼んでいる気がしたが、それに応えることも無く、ジュビアはゆっくりと瞳を閉じた。
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事の始まりは、最強メンバーで受ける予定だった依頼だったが、エルザが急遽別の依頼が入ってしまい、補填メンバーとしてジュビアが選ばれた。
グレイと一緒に仕事に出かけることなど貴重な機会にジュビアは舞い上がっていたが、仕事は滞りなく終わらすことが出来き、マグノリアへと戻る帰りの森で盗賊に襲われた。
4人で行動をしていたら問題はなかったであろう。
だが、依頼人へ報告を終えた後、街にある小さな雑貨屋の前で足を止めた女性2人。
ハンドメイドのアクセサリーが並ぶ店舗に足を踏み込んだら最後
年頃の女性2人が短時間で出てくるはずもなく、待ちきれなかったナツとグレイ、そしてハッピーは先へ帰路についた。
本来であれば、危険など無いはずの森の中。
先に進むグレイ達に追いつくために早足で森を駆ける、ルーシィとジュビアの前に立ちはだかる盗賊達。
不意に襲われたルーシィは精霊を呼び出す間もなく、盗賊からの攻撃を受ける。
悲痛な悲鳴が森に木霊し、それを助ける為にジュビアは攻撃を仕掛けるが、冷静さが失われたジュビアの背後から激痛が走る。
一気に足の力が抜け、地面に腰を落としながらも、ジュビアはウォーターロックで盗賊を一気に拘束する。全ての盗賊がウォーターロックで捉え切れていることを確認してから、ジュビアはルーシィの元へと駆けよろうとするが、足に力が入らない。
先ほど痛みを感じた腰に目をやると、ダガーが突き刺さり、傷口が悲鳴を上げる。
突き刺さったままのダガーを抜くと、ダガーのヒルト部分までベットリとジュビアの血に染まっていた。
「「ルーシィ!!」」
ルーシィの悲鳴を聞きつけたナツとグレイが駆け寄ってくる。
容赦なく盗賊に殴られ、普段は艶々とした肌は青白く、所々切り裂かれた服。
完全に意識を手放したルーシィにグレイは上着をかぶせると、傍で座り込んでいたジュビアを上から見下ろしていた。
「お前は、何をやっていたんだ?」
「えっ・・・盗賊を・・・ウォー」
「何故ルーシィを守らない!!」
グレイから放たれた言葉に、ジュビアは現状の説明も出来ず、そのまま俯く。
表情が見えなくなったジュビアの様子を伺うことなく、グレイは踵を返すと、ルーシィを抱きかかえ走り出したナツの元へと向かった。
1人残されたジュビアの視界に、何処からと無くサクラの花びらが舞い落ちる。
ジュビアはまるで本能が求めるかのように、動かない足を引きずりながら、サクラの樹へと向かう。
満開のサクラは、サワサワとそよ風が吹くたびに、美しい花びらを散らせる。
そんな憂愁の美を飾る桜の大木から目が離せず、ジュビアは大木までたどり着くと、そのままバタリと倒れこんだ。
芝生の上に積もった花びらが、ジュビアの身体を優しく受け止めると、ドレスに含まれたいた血液がジワリと花びらを染め上げる。
とまること無く流れ出る血液が、ジュビアの体温を急激に下げると共に、ジュビアの意識も奪っていく。
「サクラ・・・キレ・・・イ・・・デス・・・」
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「ルーシィさんは打撲がひどいですけど、あと少し休むと心配要りません。」
ギルドにたどり着いたナツとグレイによって運ばれたルーシィはウェンディの手によって治療され、事なき得た。
「そう言えば、ジュビアが居ないよ、ナツ〜?」
痛々しく腫れ上がった頬も、治癒魔法によって回復し、スヤスヤと眠るルーシィに一安心した中、ハッピーがキョロキョロと辺りを見渡しながら呟く。
「あの・・・微かになんですが、ルーシィさんとは違う方の血の臭いがルーシィさんに付着しているんです。もしかしたら、ジュビアさんのじゃ・・・」
ハッピーの言葉に、ウェンディが治療中に感じた違和感を伝えると、ナツはルーシィの傷口に鼻を近づけクンクンと臭いを嗅ぐ。
それはルーシィの臭いであることは間違いなく、今度はルーシィから30センチほど離れてクンクンと嗅ぐと微かに別の血の臭いを嗅ぎ分ける。
ルーシィが倒れていた現場で強烈に感じた臭い。
傷だらけになり、倒れていたルーシィに冷静さを失っていたナツは現場で感じた臭いはルーシィだと信じ込んでいた。
自分達がギルドに戻り、既に2時間ほど経過している。
今もギルドに戻らないジュビア・・・
そんな状況に、ナツとグレイは一気にギルドを駆け出した。