御本(短編)*土方さん*

□虚しさの相殺
2ページ/4ページ


「お前のそもそもの虚しさってのは一体何なのか。いい加減…お前もガキ卒業して、そこ考えろ」

『え?』


まるで、私がそこについて本当は1度もちゃんと考えたことがないっていうことを

すっかりきちんと悟っているように…

眼孔鋭く…叱咤(シッタ)された。

さっきまで乱れてた互いの隊服は、私のスカートのプリーツまですっかり元通り…。

私の出してた甘えた声は…今や白昼夢だったかと思える程、二人で出た書庫の外の廊下はまだ日射しが眩しい。

入った時よりも暑いし。

それを浴びて眩んでいたら唐突に、隣の相手に随分上の方からそんな言葉を低い声で落とされて。

唖然として見上げれば…そのヒトの眼孔は鋭かったというわけだ。

恐ろしい。けど…魅了されちゃう。

この書庫辺りはいつも人気がない。

仕事で普段から使っているといえばこのヒトぐらいだろう。

このまま…書庫から出てきてしまったまま暑さにヤられっぱなしで

ここでお説教を続けられてしまうのか。


言葉のお説教は…欲しくない。嫌い。

ホラ…この辺が私って子供でしょ?

このまま黙って仕事に戻っちゃおうとすれば…この続きはおじゃんになるよね?

…とか、こんなとこも“幼稚”でしょ?


だって考えるのが恐い。

どうせ考えついたって向き合えない。

だからちゃんと考えない。

つまりは…薄々気付いてるんだけどね?

だから、“どうにもならない”って思って…アナタに逃げてきてしまうんだけど。

それぐらい…土方さん、アナタならわかってくれてると思ったよ。

だって…アナタだって同じでしょ?虚しいでしょ?…きっと、この狢の中なら…アナタと私だけじゃないだろうけど。

虚しいのは…この腰に差してる重さと、この時代とこんな生き方の所為。

愛とか…綺麗事も憧れも…捨てなきゃならないこんな生き方の所為。

それが…虚しい。

尚、虚しいのはこの生き方を選んだのが自分自身だということ。

だから虚しさも遣りきれない。

どうにもならない。

そして…“女”であることを利用しつつも、それこそ虚しいのは……

“人並み”を望めないから。


だから…ズルぐらいさせて。


続けさせて。


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ