御本(短編)*土方さん*
□虚しさの相殺
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「お前のそもそもの虚しさってのは一体何なのか。いい加減…お前もガキ卒業して、そこ考えろ」
『え?』
まるで、私がそこについて本当は1度もちゃんと考えたことがないっていうことを
すっかりきちんと悟っているように…
眼孔鋭く…叱咤(シッタ)された。
さっきまで乱れてた互いの隊服は、私のスカートのプリーツまですっかり元通り…。
私の出してた甘えた声は…今や白昼夢だったかと思える程、二人で出た書庫の外の廊下はまだ日射しが眩しい。
入った時よりも暑いし。
それを浴びて眩んでいたら唐突に、隣の相手に随分上の方からそんな言葉を低い声で落とされて。
唖然として見上げれば…そのヒトの眼孔は鋭かったというわけだ。
恐ろしい。けど…魅了されちゃう。
この書庫辺りはいつも人気がない。
仕事で普段から使っているといえばこのヒトぐらいだろう。
このまま…書庫から出てきてしまったまま暑さにヤられっぱなしで
ここでお説教を続けられてしまうのか。
言葉のお説教は…欲しくない。嫌い。
ホラ…この辺が私って子供でしょ?
このまま黙って仕事に戻っちゃおうとすれば…この続きはおじゃんになるよね?
…とか、こんなとこも“幼稚”でしょ?
だって考えるのが恐い。
どうせ考えついたって向き合えない。
だからちゃんと考えない。
つまりは…薄々気付いてるんだけどね?
だから、“どうにもならない”って思って…アナタに逃げてきてしまうんだけど。
それぐらい…土方さん、アナタならわかってくれてると思ったよ。
だって…アナタだって同じでしょ?虚しいでしょ?…きっと、この狢の中なら…アナタと私だけじゃないだろうけど。
虚しいのは…この腰に差してる重さと、この時代とこんな生き方の所為。
愛とか…綺麗事も憧れも…捨てなきゃならないこんな生き方の所為。
それが…虚しい。
尚、虚しいのはこの生き方を選んだのが自分自身だということ。
だから虚しさも遣りきれない。
どうにもならない。
そして…“女”であることを利用しつつも、それこそ虚しいのは……
“人並み”を望めないから。
だから…ズルぐらいさせて。
続けさせて。