御本(短編)*桂っぷ*

□奇跡の誕生
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「そろそろ触れさせてくれぬか・・・・千和」



夜、珍しく2人きりでお酒を入れた。

この機会はエリーのおかげ。

でなければ、こんな風に彼の塒(ネグラ)で夜を長いものと実感することはきっとできない。

そして・・・・こんな彼の囁きを

この耳元に感じることも、無理だった。きっと。



『小太郎』

「千和・・・・俺がお主を欲するには、まだ尚早(ショウソウ)なのか?」



熱い重みのある声音。

寝巻きの着流しに“酒を煽ると熱いな”と後ろに結った髪。


そんな姿で小太郎がこんなに悩ましく私に詰め寄ってくるのは初めて。

それが、今、解禁されたのには理由がある。

お酒のせいじゃない。


・・・・・私が小太郎の誕生を遡(サカノボ)り、あなたが生まれてきてくれたことに感謝しますと話したから。

この世に、この夜に・・・今あなたがこうして私の隣で愛を向けてくれることがとても、とても奇跡のように嬉しいから。



「俺がお前に今以上の愛を証明できるのは最早これしか思いつかん。」

『引き返せなくなるのがホントは少し恐いと言ったら・・・怒るでしょ?』


「・・・・・引き返せなくなってしまえばいいだろ。どうあろうと離すつもりがない。」

『・・・・・わかってる。けど、まだ準備ができてない。』



あなたを・・・・


『小太郎を・・・忘れなければいけない日が来てしまった時のことを私は』


恐れてて。



『・・・・ごめんなさい。あなたをまだ真っ直ぐに受け入れられない。』

「千和・・・・」



ねぇ、小太郎…あなたはその時どうするつもりなの?



「それは・・・・家族がいても乗り切れぬ恐れなのか?」

『え?』



お酒を置いた手が・・・・包まれる。

真っ直ぐどこまでもどこまでも真っ直ぐ私に穴を開けてしまいそうなほど真っ直ぐ、貫かれるような眼差しの訴え。


「家族の力に俺は勝手に憧憬(ドウケイ)しているのは自覚しているが、それも全て・・・・お前が俺の傍にいてくれようとやってくれるからではないか。お前の所為で期待が膨らむのだ。いつかできる・・・その家族へのものが。」

『家族のチカラ・・・・。それって・・・』

「子を成してくれ。俺とお主の愛を固くする為に。それが叶えば俺は消えん。守るものを手一杯に抱える強みを・・・・俺に与えてくれぬか?千和。」





信じよう。そう言うあなたの全てを。

愛しいものならばいくらあってもいい。

恐れを超える・・・・強みにしよう。






長夜の深くで交わす契りがこれから起こす奇跡。


愛通ずるは・・・・真(シン)の男の強みかな…。



さぁふたり、未来を信じて・・・





《奇跡の誕生》


fin.


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