御本(短編)*桂っぷ*
□また逢いたい
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『もし?そこの笠のお方?落とされましたよ?』
「ん?おう!これはいかん。かたじけない。」
そなたがあの橋で拾ってくれた“んまい棒( 混捕駄呪味)”から運命が始まったのだ。
手渡された“んまい棒( 混捕駄呪味)”。
貰い受ける時、ふと手が触れてしまった。
それは
「そなた、美しい手をしておるな。その手はなるべく長く保つ方が良い。大事にされよ。ありがとな。」
『え・・・・ええ。』
声音も美しく澄んでいた。
笠越し、編みの目の隙を使って見遣ればそこに立って居たのは・・・・
天女に思えた。
見ればあちらも笠を被り薄撫子色の着物とそれよりも薄い透けたような絹を肩から纏い髪は艶漆黒(つやしっこく)であった。
「ま、まさかそなた・・・天女か?」
『?そんな。クスクス・・・人間ですよ?天人に見えたんですか?こんなこと初めて。クス』
確かに出で立ちはこの地球(ほし)の者、そのものであるのだが・・・・・
「うむ・・・・俄かには信じられんな。そなたのような絶世の美しさを持った御仁など。俺の智(ち)を超えている。人智も超えそうではないか。」
『まぁ!もしかしてあなたホストさん?あなたこそ、その笠の下のお顔は美しいのではなくて?(微笑)そこら辺ではお目にかかれそうに無い美男にお見受けできるけど・・・・』
俺の顔を知っているのか?見えたのか?
漸く警戒心が俺の元に戻ってきた。
「そんなことはない。・・・・初対面の女人に我ながら無粋な真似だったようだ。俺はこれにて行かせて貰おう。済まなかったな。」
『いえ。いいのよ。褒められて心地よかったから。それじゃ私も。』
俺も彼女も笠を深めに正し、互いに背を向けて橋を降りた。
降りるとすぐにエリザベスと落ち合った。
「おお、エリザベス迎えに来てくれたか。行こう。」
【美人でしたね?】
未だ振り返らず俺は先を行くつもりだった。
「顔はよく見なかったが、きっとそうだろうな。しかし手が美しすぎた。人妻ではなかろう。残念だ。」
【桂さん】
「ん?どうした?エリザベス。」
エリザベスが中々付いて来ぬので結局振り返ってしまった。
すると向こうもちょうど橋を降りきったところでこちらを見て止まっていた。
細(ささ)やかな会釈を返される。
返さねばな。礼儀だ。
「・・・・。さて、本当にもう行こう。エリザベスよ。蕎麦でも食おうではないか。」
そうしてまた帰路に振り返った瞬間だった。