御本(短編)*銀ちゃん*

□夢現(ムゲン)の恋:
1ページ/3ページ


『銀さん。大丈夫ですか?もうお店閉めますから。・・・・大丈夫ですか?送りましょうか?』

「ア?んー・・・え?今アンタなんて言ったんれすかぁ〜?銀さん送るって・・・マジかぁ〜。送りオオカミ娘ですかぁ?コノヤロー。あーイイ夜だなぁー♪ヒック!」




すっかりお酒につけこまれてしまった銀さん。

銀さんなんて呼んでますけど、今日初めて会った人。

今日、このたったひと時の時間でよくおしゃべりしてくれて私にも楽しい時間をくれた人。

こういう飲み屋さんのカウンターに終日立ってやっている以上、これは半分お仕事みたいなもの。

だけど、今、私の中でもう半分は・・・・淡い彼への好意と小さな企み。





『もう・・・銀さんたら。ちょっと待っててくださいね?もう少しで片付け終わりますから。』

「オーウ。」




カウンターに突っ伏する背中が広い。


銀さんは不思議な人。

この銀の髪色も不思議だし、紅い瞳も。

全部自前なんだと彼は教えてくれた。

その時、ふと悲しい顔もしたから余計不思議になった。

でもすぐに不思議は憂いになった。




「“異端”はどうしてこの世に出(い)でるかね・・・。最悪だぜ。」





呟いて、お猪口を傾けて陰らせた表情は切なくて悩ましかった・・・。

そして私の心を苦しくさせて。



(“異端”は愛されないと思っているんですか?)




「あんた・・・いい女だな。」





私は何も言葉にはしていない。

ただ、そんなあなたに見惚れて話を聞いていただけの私に彼はそう言った。

ささやかに口角を上げた銀さんは、不思議な憂いを纏(まと)う



・・・色っぽい男(ヒト)。









その時、私の中で好意も小さな企みもきっと生まれた。


次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ