御本(短編)*総ちゃん*

□従順なオンナ
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「ありえねぇ・・・マジ勘弁でさァ。」

『どうしたの?総悟。』




縁側でのんびり暇をつぶしていたら彼の携帯になにか連絡があったみたい。

業務連絡かな?なんだろう?




「・・・ハァー。季紅(キコ)、悪ィけど・・・明日のデートちょいと延期でさァ。せっかくの非番なのにどうも緊急の仕事みてぇで。」

『え。・・・あ、そうなんだ。それじゃ仕方ないから・・・うん。わかった。』

「すまねぇ。・・・あーあ。これでこのチケットは無駄だなァ。マジ死ね、土方。チケ代、土方に返してもらいまさァ。」



ポケットからアイマスクと一緒に連れて出てきたのは、
さっき暇を持て余した彼がふらっと取ってきてくれたばかりの映画のチケット。

それが2枚。総悟の手の中で風にむなしく吹かれて折れそうになっている。



「デートの埋め合わせは別に考えるとして・・・季紅(キコ)、これやるんで誰か友達と行ってきなせェ。ホラ。」

『でも・・・』



渡されたチケットには、ずっと見たかった映画のタイトル。

本当は総悟と見たかったんだけど・・・



「ずっと見たかったんだろィ?俺も季紅(キコ)と見たかったけど・・・これ明日行っとかねぇと来週は上映終了だぜィ?もったいねぇし、行ってきな。」

『・・・それじゃ、うん。』



少し風でくたびれたチケットを私は受け取った。

淋しい。



でももうこれ以上今は、聞き分けなくなるのはやめよう。

だって・・・・





『総悟?』

「ん?・・・・俺のことは気にすんじゃねーや。楽しんできなせぇ。あ、結末話してくんなくていいぜィ?多分、DVD買うんで。」




アイマスクをしてしまった総悟。

瞳が見えないよ。

大事なこと・・・お願いしたいのに。




『違うよ、総悟。・・・・仕事、気をつけてきてね?』

「・・・・へい。」




仕事嫌いな彼が予定の入った非番を捨てて召集に従うなんて

それはきっと・・・




『ケガ・・・・少なくしてね。小さいのだけに・・・。総悟の腕ならできるでしょ?』

「どうだろうねィ。自信はあるけど運は操れねぇし・・・けど、善処しまさァ。季紅(キコ)のために。」

『うん。お願い。』




見れない瞳と段々夕暮れて冷えてくる風あたりに不安が私の身体を侵しそう。

でもそんな時にふと・・・



「・・・・冷えてきたねィ。戻りやしょう。」



私の想いを浄化する大好きなぬくもりが指先にくる。

例え明日はその手が生ぬるく汚れても・・・


いいの。


居て。


好きだから、全部。





「・・・・明日、俺が季紅(キコ)のお願い巧(うま)く利(き)けたら」



私の手を引き上げて立たせてくれる。

そして



『・・・総悟。』

「今度は俺の願いを聞いてくんねぇかぃ?・・・・大事な願いなんでさァ。」

『うん。・・・それじゃやっぱり映画行かないで待ってる。』




ぎゅっと抱きとめられたこの腕の中に


いつまでも私がいられるようになるのなら



なんだって・・・・



なんだって・・・・。









翌日、出掛ける彼ら一同の前で構わず総悟に熱い唇を寄こされた。

それでも今は彼の好きにさせたい。

どうか・・・力に変えてきて。








名残惜しいアナタのワタシは・・・―








《従順な女》


end.→あとがき


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