御本(短編)*総ちゃん*

□葉月に光る幸せクローバー
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セミの鳴く季節。

私の足下で小さな帽子を両手であげて

汗をたっぷり吸わせちゃってる亜麻色の髪をその中から覗かせてる男の子。


「お母ちゃん…」


帽子のつばごしに、スホウ色の円らでキラキラの瞳が一生懸命見上げてくる。


『ん?どしたの?』


まだ無垢な小さな小さな手も一生懸命私を引っ張る。

この背中に丸まってるスヤスヤの妹ごと。


「こっちきてぇー?」

『どこ行くの?』



もうすぐお盆。

この子の幼稚園の夏休みを利用して今日も目一杯、私は…誰かさんの生き写しみたいなこの子を

今日も今日とて何だかマジメに働いてるその誰かさんの分も慈しんであげる。

お出かけしてきたのは、町の商店街。

急にこの子が「おでかけ〜」と言い出して止まらなくなったから。


「パパがくるの〜」


手を引かれてようやく止まったのはお花屋さんの前。


『え?ここにくるの?』


町の小さなお花屋さん。

向かいのあのお団子屋さんならまだわかるけど、どうして総悟がこんなところに来るの?


『ねぇ、総真?どうしてここにパパ来るって思うの?』


ひまわりの前で屈んで、膝に両手で頬杖ついて、右に左に揺れながらニコニコしてる総真の横に私も屈んで訊ねた。

拍子に背中の満葉(ミヅハ)がモゾっと動いたから…起きたかな?


「きのう、よる、おふとんのなかでパパと“ヤキソク”したよ!」

『え?“ヤキソク”?』


ヤキソク?…あ!ヤダ、もしかしてこの子“ヤキソバ”と…


「“ヤクソク”でさァ(笑)総真、んでそんなもん混ざって覚えたんでィ。」

「パパー!!」

『ッ!?』


一目散に声の方へ駆けてく総真の背中を慌てて目で追うと

振り返ったそこにやっぱり…隊服の…



『総悟…』


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