御本(短編)*退くん*

□アガル恋。
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ピンポーン♪




『はい?』

「桜(サクラ)ちゃん!オレだよ!」

『え?退くん?』



ガチャ。




「来ちゃったよ!入ってい?」

『もちろんだわ!』





私の部屋にやってきたのは見慣れない私服の彼。退くん。

髪も少し見慣れない風に遊ばせてる。




「お邪魔します。あ、なんかやっぱり久しぶりで嬉しいや。この匂い。へへ。」

『そお?だけど退くん、本当は学校のあそこの匂いの方が好きって言ってたわよ?前は。』




“あそこ”は保健室。

彼が数週間前に去った高校の保健室。

私のワークルーム。




「そうなんだけど・・・どうしよ?もう忘れそうだよ。(苦笑)」

『淋しいわ。』




会話をしながら居間に招き入れると、ふとすれ違い様にもうひとつ彼の変化を見つける。




「淋しいなんて言わないでよ。今度はそっちに会いに行くからさ。」

『うん。・・・・ねぇ退?』


「ん?なに?」





テーブルの前に座った彼がまだ立ったままの私を見上げる。

やっぱりまだ少年らしい優しい表情。





『もしかして、あなた少し身長伸びた?』

「あ!わかった?いいいでしょ!地味に2センチ。この歳で快挙じゃない?嬉しくてさ!これでまたセンセイが小さく可愛く見えるからね!」

『もう!またそうやって言うのね?私、そんなに小さいかしら?』




お茶を出してあげなくちゃと、キッチンに移動する。




「小さいよ!だってオレ、高1の時にはもうセンセイのこと小さいって認識してたよ?オレだってあの時まだチビだったのに。」

『そうなの?いやだなぁ。できるなら私も伸ばしたいわ、身長。羨ましい。・・・はいどうぞ。』

「あ、懐かしいな!ありがとう!」

『うん。』




時々、保健室でも出してあげてたミントティーを退くんの前に置いた。

カップはいつもの彼の。でも、こっちはここ用。

もっと見慣れたカップは、まだ持って帰ってくるのが淋しくてあそこに置いてある。


彼の向かいに座った。




『今日は大学ないの?』

「え?日曜日だよ?だからセンセイも休みでしょ?(笑)変だな?どうしたの?もしかして緊張とか動揺してる?(笑)」

『!・・・・だって急にくるから。昨日までメールしてたのに。言ってくれれば・・・』

「サプライズぐらいオレだってするよ(笑)でもだったらこれは成功だね?へへ。よかった。やってみて。本当はちょっとこっちも緊張したよ。いなかったら焦るしね。」

『退くんてそんなにやんちゃだったかしら?(笑)でもありがと。会えて嬉しい。』




私もひとくちミントティーを口に運んで、退くんを見た。




「・・・相変わらず可愛いよね?センセ。そいうとこやっぱいいよ。オレ、好き。」

『っ・・・なんか今日の退くん、調子狂うわ(苦笑)ずるくなった感じよ?』

「え?ほんと?・・・・でも、うん。いいね、そういうの。センセイにずるく思われるヤツ。目標なんだよ。バラしちゃったけど(笑)」

『クスクス・・・大丈夫。それなら、もう十分よ。私を振り向かせた時点で退くんはずるかったもの。』




これ以上、染めた頬を悟られないようにキッチンに向かった。




「・・・・センセってどこまでオレを夢中にするの?」

『え?何か言った?』




小さな声だったからもうよく聞こえなかった。




「ううん。何でもないよ?それより、そろそろ」

『やっぱりお腹減ってるのね?もうお昼だものね?私もまだだから食べてく?』






あーそいうとこもセンセは相変わらずだ。

そうじゃなかったんだけどな(苦笑)

でも何でも可愛いや。





「・・・うん。」


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