御本(短編)*退くん*
□アガル恋。
1ページ/2ページ
ピンポーン♪
『はい?』
「桜(サクラ)ちゃん!オレだよ!」
『え?退くん?』
ガチャ。
「来ちゃったよ!入ってい?」
『もちろんだわ!』
私の部屋にやってきたのは見慣れない私服の彼。退くん。
髪も少し見慣れない風に遊ばせてる。
「お邪魔します。あ、なんかやっぱり久しぶりで嬉しいや。この匂い。へへ。」
『そお?だけど退くん、本当は学校のあそこの匂いの方が好きって言ってたわよ?前は。』
“あそこ”は保健室。
彼が数週間前に去った高校の保健室。
私のワークルーム。
「そうなんだけど・・・どうしよ?もう忘れそうだよ。(苦笑)」
『淋しいわ。』
会話をしながら居間に招き入れると、ふとすれ違い様にもうひとつ彼の変化を見つける。
「淋しいなんて言わないでよ。今度はそっちに会いに行くからさ。」
『うん。・・・・ねぇ退?』
「ん?なに?」
テーブルの前に座った彼がまだ立ったままの私を見上げる。
やっぱりまだ少年らしい優しい表情。
『もしかして、あなた少し身長伸びた?』
「あ!わかった?いいいでしょ!地味に2センチ。この歳で快挙じゃない?嬉しくてさ!これでまたセンセイが小さく可愛く見えるからね!」
『もう!またそうやって言うのね?私、そんなに小さいかしら?』
お茶を出してあげなくちゃと、キッチンに移動する。
「小さいよ!だってオレ、高1の時にはもうセンセイのこと小さいって認識してたよ?オレだってあの時まだチビだったのに。」
『そうなの?いやだなぁ。できるなら私も伸ばしたいわ、身長。羨ましい。・・・はいどうぞ。』
「あ、懐かしいな!ありがとう!」
『うん。』
時々、保健室でも出してあげてたミントティーを退くんの前に置いた。
カップはいつもの彼の。でも、こっちはここ用。
もっと見慣れたカップは、まだ持って帰ってくるのが淋しくてあそこに置いてある。
彼の向かいに座った。
『今日は大学ないの?』
「え?日曜日だよ?だからセンセイも休みでしょ?(笑)変だな?どうしたの?もしかして緊張とか動揺してる?(笑)」
『!・・・・だって急にくるから。昨日までメールしてたのに。言ってくれれば・・・』
「サプライズぐらいオレだってするよ(笑)でもだったらこれは成功だね?へへ。よかった。やってみて。本当はちょっとこっちも緊張したよ。いなかったら焦るしね。」
『退くんてそんなにやんちゃだったかしら?(笑)でもありがと。会えて嬉しい。』
私もひとくちミントティーを口に運んで、退くんを見た。
「・・・相変わらず可愛いよね?センセ。そいうとこやっぱいいよ。オレ、好き。」
『っ・・・なんか今日の退くん、調子狂うわ(苦笑)ずるくなった感じよ?』
「え?ほんと?・・・・でも、うん。いいね、そういうの。センセイにずるく思われるヤツ。目標なんだよ。バラしちゃったけど(笑)」
『クスクス・・・大丈夫。それなら、もう十分よ。私を振り向かせた時点で退くんはずるかったもの。』
これ以上、染めた頬を悟られないようにキッチンに向かった。
「・・・・センセってどこまでオレを夢中にするの?」
『え?何か言った?』
小さな声だったからもうよく聞こえなかった。
「ううん。何でもないよ?それより、そろそろ」
『やっぱりお腹減ってるのね?もうお昼だものね?私もまだだから食べてく?』
あーそいうとこもセンセは相変わらずだ。
そうじゃなかったんだけどな(苦笑)
でも何でも可愛いや。
「・・・うん。」