御本(短編)*土方さん*
□宵に逢えたら(後)
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パトの中で適当に朝食を食らう
朝食でパンを食ったのは久しぶりだ。
手っ取り早いが腹にゃ溜まらねぇ。
あっという間に胃に放って、それから缶コーヒーを開けた。
「行くか。」
車を発進させる前に煙草に火をつける。
向かうのは浅草の茶屋だ。
あっちが指定してきた店だからどれほどの店かわからなかったが、着いてみて納得がいった。
「伊達に花魁しちゃなかったってか」
煙草を灰皿で揉消して車を降りた。
それなりに侘(わ)び感のある恐らく高級店だろう。
あっちはオフレコでの行動になっている。
ここのような、日に客を数人もとらないような店で手付けを渡して念入りに口外を封じたか。
門をくぐって石畳を靴底でこつこつと叩きながら庭園を通る。
多分これが店の入り口だろうというところで
『もし。・・・土方さんかしら?』
振り返ると凛と着物を粋に着た女がいた。
「ああ。あんたが清祥庵の女将か?」
あずき色の質のよさそうな肩がけをとりながら女は
『あらま…噂に違わずいい男ね!よろしく、安寿の母です。』
微かに見覚えのある笑みでそう言った。