御本(短編)*土方さん*

□don'tcry×kiss
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『仕事が遅くてもいいよ。でも連絡はしてよ。』

「・・・悪かった。次はそうすっから。今日の埋め合わせも必ずする。」



結婚記念日に旦那にすっぽかされた哀れな妻が泣いてる。


エプロン姿のまま、顔に両手を当てて声を堪えるように泣いている。


最悪に痛烈な光景が今、俺の目の前にある。


このことは完全に俺が悪かった。



「安寿。もう顔上げてくれ。本当に悪かった。」



もうすっかり冷めちまった手作りの料理がテーブルを埋めていて、安寿の泣き顔とその料理の色彩のギャップが酷く虚しい



完全に甘えてた。

俺の仕事をどんな時でも理解してきてくれたコイツに。

結婚1年目のこの日に最悪なかたちでそれが表れちまった。


こんなとき男は本当に阿呆だと思う。



泣かせちまうに決まってんじゃねーか。


安寿の顔が徐(おもむろ)にあがった。



「安寿・・・。」



泣いて真っ赤になっちまった瞳で俺を見ている。



『トシ・・・。私がどんくらい心配したかちゃんとわかってる?』

「え・・・」



予想もしてなかったことを言われる。すぐには返す言葉が見つからなかった。



「・・・・・」

『私、トシに約束すっぽかされることぐらいは平気。ずっと一緒にいてもうそうゆう心構えはできてる。でも・・・まだ・・・っ』



だから、お前のそうゆう聞き分けのいいところに俺は甘えちまったんだ。

けど・・・・・



「っ・・・頼むからもう泣くな。」

『・・・・っ』




今にも泣き崩れそうな華奢なカラダを抱きとめた。



『だって・・・もうあなたに会えないかと思った・・・っ!』

「・・・・ちゃんといる。まだお前を泣かせたくねぇ。」




抱きしめても抱きしめても埋められない切なさを止めるために・・・


その涙を止めるために





don'tcry×kiss...






どんくらいキスすりゃ止まる・・・。



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