御本(短編)*土方さん*

□『大安吉日』〜優しい人へ「ありがとう」〜
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『まさか披露宴がここだなんてね?』



白無垢でパトカーから降りるとそこには見慣れたいつもの門



「近藤さんがセッティングしてくれたんだ。仕方ねーだろ」
『仕方ないなんて…ありがたいの間違えでしょ?(笑)』



いつもの調子と変わらないお前との会話も

その形のいい

紅の唇から紡がれれば・・特別な気になる



『皆は?』

「いつもの広間で待ってる。どうせ半分もう酔っぱらいだろ」

『そうね(笑)』



袴のトシにまだ慣れなくて

まともに彼の顔を見られない

白無垢の不自由さにかまけて私は彼のちょっと後ろからいつもの廊下を歩く

この庭もあの池も

この廊下も

この場所も・・・


全部見慣れてるけれど

隊服でも着流し姿でもない

今の貴方ごしに見れば・・・特別な気になる


私の着物を気遣って、今日は一本も吸わないのね?

さっきの式でも車中でも

まだいつものあなたを見ていないのよ



『ねぇ…トシ?』

「?何だ?」



後ろから少しだけトシの袴着の袂を引いて



『きっと近藤さんの本音は…』

「…わかってる」



振り向いて私を真っ直ぐ見てくれたから

花影のここで私から口付けて



『…紅、付いちゃった』

「…もういいだろ」



少し照れた諦め顔でトシが向けた視線の向こう

あのいつもの障子の向こうから陽気な沢山の笑い声が聞こえてる


トシがそれを引いて

後ろから私も皆の嬉しい冷やかしを照れる暇なんてないくらいに受けたら



2人で…


誰よりもトシと私を

私たちを想ってくれてるあの人に

揃って伝えにいかなくちゃ・・・



「…近藤さん」



これは…この宴は…


“私たちへの思いやり”


皆と気兼ねなく精一杯の祝福の宴をここで…



『…近藤さん』



さぁ・・・一緒に






『「ありがとう」』




一杯酌み交わせばもうそこには


いつものあなたの紫煙と笑顔が見えた。






本日晴天

大安吉日




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