御本(短編)*土方さん*
□「悪ィ、行ってくる…!」
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「安寿。悪ィ、…行ってくる。」
『え?そんな格好でアナタったらどこ行くつもりデスカ?ねぇー?燈志(とうし)ー?パパったらこどもの日に息子を置いてどこ行っちゃうんですかねー?』
「ウァー?」
ただいま世間はゴールデンウィークの最中。
ただしそれはあくまで世間の話。
それにもれて、我が家はゴールデンウィークとは無縁のようなんです。
「どこって・・・仕事に決まってんだろ。」
隊服に兜かぶって、背中に鯉のぼりたなびかせて?
ヤダ、笑っちゃう!
『今日は遅めの出勤でいいんだね?それに上着も着ないで随分ラフな格好じゃない?いいの?』
何だかんだ言いながらちゃんと見送るつもりでもう玄関先に出てしまった。
イイお天気。
これなら上着もかえって邪魔になりそう。
「あぁ。今日はいつもの仕事とは別だからな。…ってオイ!燈志(とうし)やめろっ!鯉のぼり引っ張んなっ!」
「うー!あぅー。」
あたたかい陽射しの下で幼い愛息子と目線を合わせてそうして遊んでる姿を見ると
あなたのどこに鬼が垣間見えるのかちっともわからない。
『それで今日はどんなお仕事なの?』
それは何となくわかるけど聞いてみる。
「子どもたちに柏餅配ってくんだよ。この辺と、行けたら隣町の保育園やら幼稚園やら小学校やら…」
『クスクス…ちょっと遅めとはいえ、朝から大変ね?それ、最初に誰がやるって決めたのかしら?』
ブカブカの兜を被せられた燈志(とうし)がトシの腕から私の腕に戻ってくる
「お、俺じゃねーぞ?!こ、近藤さんだよ!あの人、こういうの好きだからなっ!全っ然俺じゃねぇー!」
『ハイハイ(笑)燈志(とうし)、パパは今年からこどもの日の使者になるんですって!カッコいいねぇ?』
「…配り終わったらなるべく早く帰って来るからよ。したら、夕飯でコイツの分祝おうぜ。コイツはまだ食べさせらんねぇけど、代わりに俺と安寿の分の柏餅もらって帰ってくるぜ。」
トシの大きい小指と燈志(とうし)の小っちゃな小指が遊ぶようにユビキリゲンマンしてる。
『約束よ?私はちらし寿司作って待ってるんだから』
「おう。マヨ多めで頼む。」
『いいけど…本当に早く帰ってきてよね?今日は緊急以外は他のお仕事入れちゃダメよ?トシの分も今日はお祝いなんだから。』
「・・・・お、おう。」
『忘れてたでしょ?(笑)こどもの日だけどあなたの日でしょ?去年も私、マヨちらし作ったじゃない。あれはトシ専用のだったでしょ?覚えてる?』
「そっか・・・コイツまだ居なかったか。」
目を細めてトシが燈志(とうし)の頬をつく。
そんなアナタが見られる日が来るなんて思わなかった。
安堵が胸を満たしてく。
『・・・もう。今年は初めて一緒にお祝いできるんだから皆にも邪魔しないように言っといてね?特に・・・』
「近藤さんと、あとは違う意味で総悟のヤローにだろ?」
『うん!お願いします。あっ!ねぇごめんっ!時間大丈夫?!』
すっかり家族時間に和んじゃってた。
「おっ!やべぇーな。遅れると近藤さんに迎えに来られちまう。もう行くぜ・・・。」
『うん・・・。』
軽いキスを寄越して、おかしな後ろ姿のトシが出かけてゆく。
角を曲がって見えなくなりそう
だけど
『あっ!ねぇちょっとコレ!兜!』
「あ?・・・っと、やべ。ソレ忘れたら近藤さんにねちねち文句言われっからな。」
「あうー。」
よかった気付いて。
トシを声だけでなんとか引き止めた。
この頃ますます男の子らしくずっしりしてきた燈志(とうし)。
その頭にトシの忘れ物を被せたまま私は慌てて戻ってくるトシを待った。
そして
『ハイ。パパどうぞ!』
私の腕の中の燈志(とうし)を、少し背伸びしてトシの胸辺りに近づけてあげる。
そしたら・・・