御本(短編)*土方さん*
□マジックアワー
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「悪かったな。呼び出して。」
『いえ。ちょうど外にいましたし、大丈夫ですよ?』
着流しの姿で涼やかに街を歩く土方さんは完全にオフの仕様。
変わらないのは、きりりとした眉目と全身の内から出る秀麗。
つまり基本は全ていつもの彼なのに着流しの気楽さが不思議に魅力を上乗せしている。
その隣を今日はたまたま、光栄にも歩かせてもらえる。
その理由は、数十分前彼から電話をもらったことで判明し、今に繋がった。
久しぶりに会えた友人と食事を約束して、楽しんで済ませた直後・・・
私の携帯がバッグの中で震えた。
さっきの友人がメールをくれたのかも知れない。
でも着信が長い。
少しおめかしをした所為でバッグも変えたから、小さいそれの中でも暫らく携帯は行方不明で慌ててしまう。
相手を待たせてやっと出た。
慌てたから画面も見なかった。
私の番号を知っている人の数は十数人が関の山。
見ずに出たとて誰でも心配はない。
『もしもし?ごめんなさい。お待たせしました。』
心配ないけれど
「・・・・安寿。土方だ。忙しいのか?」
心臓に悪い人はたったひとり居たんです。
『あ、あの・・・・はい。・・・どうしましたか?』
「あ?忙しいのか?ならいいぞ。悪かった。」
このまま切れてしまうじゃない!
『いえ!もしもし!?大丈夫ですよ?忙しくないです!土方さん!私、忙しくないです!もしもし?』
「・・・・・クッ!ははっ・・・いや悪ィ。聞こえてる。忙しくねぇのかよ。ならお前、今から呼んだらすぐ来れるか?」
電話越しにその悩ましい声の笑い声・・・・とお誘い?
え?どうしよっ!!
『行きます!行きますよ?どこですか?何ですか?』
「大江戸スーパー。一番館な。わかるか?」
『?よく行きますからわかりますよ?でも』
「安寿、急いでくれ。切羽詰ってる。頼む。今すぐその足動かせ。待ってる。」
そう言って切れてしまった。
本当に切羽詰った様子。彼にしては言葉が乱れてる。
こうなったら気になって。思わず気の急くままタクシーを捕まえた。
悪い予感もどことなくするが兎に角、ぎりぎり初乗り賃金で済みそうなこれで急いだ。