御本(短編)*土方さん*
□Nakedness…
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残暑厳しい9月の日。私は今、都心のとあるお店の前に緊張して立っている。
風に吹きさらされてて少し汚れた木の扉。
そこにブリキで英字の車のナンバープレートが斜めに打ち付けられてて…
ちょっとヴィンテージっぽいアメリカンなお店の外見。
それにいかにもマッチしてる…店先に横付けされた真っ黒で大きなアメリカンバイク。
その前で見上げるそのお店のロゴ。
《TRUESELECT》…。ここは美容室。
ここで、もう3分以上…5分はこうしてるはず。
ワンピースの裾と…ウェッジソールだっていうのに足元も…残暑を巻き上げた温(ヌル)い風に揺らされてしまう。
脚が震えそうなんだもん。
緊張は…目眩も引き起こすかもしれない。もう…行こう。
「いらっしゃいませー・・・って、安寿か。どうした」
ドアを引いて中に入るとすぐに、受付のカウンターの中で何かPC作業してる彼を見つけた。
ていうより、探さなくても彼の存在には一瞬で目を惹きつけられてしまうのが当然で
…仕方ない。
私が鳴らしたドアの鈴の音に、とりあえずはちゃんと顔をあげてこっちを見たその顔は、全てのパーツがキレ良くて涼しい…モデル並み。
ちなみに長身…細身だけどいわゆる細マッチョみたいで…だからスタイルまでモデル並み。
ううん・・・こうして直接会うと寧ろモデル顔負けじゃないかとも思っちゃうよ。
『・・・えっと、その前にそれ』
「あ?何だ?」
そんな彼に、長い知り合いだから慣れてるかといえば・・・無理です。
こうして向こうからただ歩いて近付いて来られるだけで…っどうしよ!心臓がッ!!
私は、彼に緊張してたんです!!
『い…今、唇から剥がしたやつ。・・・前も注意したのに。本当にここで吸わなかったとしてもね?ガラ悪いよ?サービス業でしょ?』
「悪ィ。今日は無意識だった。手癖ついちまってんだよ。」
『だったら、仕事中は持ち歩かなきゃいいのに。』
「…そりゃ目からウロコだな(苦笑)…予約入れてねぇよな?」
銜え煙草を唇から剥がして、黒いスキニーパンツのお尻のポケットにそれを差したみたい。
それから私のバッグを預かろうと手を出してきた。
まだ何も言ってないのにどうして今日は切りに来たってわかったんだろ。
予約だって、そうだよ?入れてないんだよ?
だったら前みたいに“ちょっと顔だけ見に寄っただけって”私がまた言うかもしれないのに。
あ、そっか。この前髪だよね?収拾つかなくなってるもんね。
ちゃんと…見てくれてるんだ。
って当たり前か。やっぱりプロだもんね。