御本(短編)*土方さん*

□Kindness×Sweetness
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『ビックリした…』

「そうか」


ここは渋谷の駅前。

珍しく夕方のデートの待ち合わせ。

私は待ってる間、ケータイを弄るとかしない。

その代わり道路を見る。

それと耳も澄ます。

私がここでいつも待つのはあの音だけ。

あの姿だけだもの。

だから、他のバイクなんかいつも見過ごしているんだけど、今日は見過ごせなかった。

今、私の目の前にあるバイクとそのライダーは…


『それ、トシのなの?』

「他人のなんか乗ってくるわけねぇだろ。正真正銘俺のだ。」

『2台持ってたなんて知らなかったよ』

「言ってねぇからな」


どうしてか今日はいつにも増してつっけんどん?

相変わらず一服するその姿はかっこいいけど。


『なんで教えてくれなかったの?』

「あ?んなんしてたらそりゃもう自慢だろ…んな、ダッセェことさせてのかよ、俺に(苦笑)」

『…イヤです(苦笑)』

「だろうな(笑)」

『これもアメリカンみたいにエンジン剥き出しでかっこいいね?なんて種類?』

「フー…ネイキッドだ。」


すぐそこの喫煙スペースに移動するトシの代わりに私がそのバイクに寄って見る。


『そうだ!この間はヘルメット持って帰るの忘れちゃってごめんね!あれ?私のヘルメットは?』

「こっちだ」


振り返るとトシの左腕に私のヘルメットが通されて装着されてた。


『そうやってお家から持ってきたの?危なくない?』

「…フッ。…店に置いといたからな。近場じゃなきゃやんねぇから安心しろ。…ほらよ。被れ。行くぞ」


渡されたメットを被りながらトシがバイクに跨るのを見た。

長い脚を上げて跨いで…

アメリカンの時よりスマートなスタイルでこっちもかっこいいな…。

細身のシンプルな黒い革のライダースジャケット…その背中にくっつく。


『…いいよ。今日はどこ行くの?』

「…飯は後だぞ」

『え?まぁ…まだちょっと早いからいいけどどうしたの?』

「買い物が先だ」

『買い物?どこ?』

「銀座」


言うと同時にバイクが鳴って走り出しちゃった。

アメリカンの時よりも疾走感のある走り。

しっかりトシにしがみついたら…


「フッ…オイ、どうした?」

『別にっ…』


最初の信号までの減速で笑われた。


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