御本(中編)*クレナイメモリー*

□memory*02〔優しさじゃない…〕
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「ひとりで帰れっか?」

『大丈夫だよ』


階段下りながら、お前の後ろ姿ばっか見つめた。

いつも通りじゃねぇか。これじゃ。


「…帰ったらメールくれ」

『…ゴメン。坂田くんのメアド、消しちゃった。』


下りきっても自分だけ先行かねぇで、やっぱ待たれた。

多分、ヤローにもいつもそうやってそこで振り返ったんだろ


「は?…あ、そう。んじゃまた交換すりゃいんだろ?」


そりゃ土方に消されちまったんじゃねんだろ?

お前が…消しといたんだろ?


『…そだね』


あー…その苦笑いな(苦笑)

だよな。お前そういうやつだし、俺ァそこが好きだし

新しく変えたスマホがお前と一緒の色だとか…


「お前もアドレス変えてねぇだろ?」

『うん』


偶然と思っててくれ(苦笑)



「傘、持ってんの?」

『ないよ?(苦笑)』

「んじゃ…俺の持ってけ」

『…優しい。ありがとう』

「……」


…ったく・・・。このまんま見つめっぱなしにしてりゃわかっか?

俺の紅い眼で威嚇。


(されてーの?キス。)


「……」

『ご、ごめん。明日、返すからね』

「ビニ傘なんか返されても嬉しくねぇからな?」


(結構本気(マジ)入れてやったのに、堅てぇなやっぱ)


『そ、そっか』


靴箱から取って投げた俺の靴がお前の靴の横に並ぶ。


「小っせ。小学生用のか?」

『ちがうよ!もゥ…みんなそうやってゆう』


…ハイハイ。不貞腐れてーのはこっちだよ。

(“みんな”って、過去はダレっすかねぇー(苦笑)お姫サンよー)


「じゃな。送ってやれなくて悪ィけど先行くわ」

『うん』


アノヤローに気ィ使う気はもう微塵もねぇけど


(一緒に相合傘なんかで帰っちまうのはまだやべぇだろ)


お前の印象、悪くなんのムリ。


(JK、怖ぇからな。)


結構降ってっけど鞄なんかで避けて帰んのもカッコ悪ィし…

あ、いいこと思い付いちまったな。俺。


「なぁ、俺のブレザーだけちっと持って帰って、明日これ返してくんねぇか?」

『え?あ…そっか。ブレザーびちょびちょじゃ明日までに乾かすのしんどいね?わかった』

「頼むわ」


脱いで渡した。

俺の匂いとかあんのか?それ…



まだ9月。無駄に濡れて纏わりつかれんのもウゼェから

シャツの袖だけ捲くって雨んなかに出た。

ワイシャツなんか幾ら濡れたっていいんだよ。

ブレザーは…もうダメだ。

せっかく染込ませて消してやった、季紅の涙がまた滲んでどっか行っちまう。


『坂田くん!!』

「?」


呼ばれて振り返った。


『風邪!ひかないでね!』

「…がんばるわ」


(どんだけ律儀だよ(笑))


俺のブレザーを畳んで持ってた季紅が後ろになってくけど、

見れたレアな光景に浮かれちまって口が緩む。

ったく…


(俺の思い出を夕立なんかに持ってかれてたまるかよ。)


あいつに預けた俺の今日の思い出が

明日もきっとその瞬間にまた俺の思い出になって

あいつの手から渡して貰えると思うと

そんだけでもう気が軽ィ。だからまた…


「笑っちまうな」



けど…俺の優しさは、“お前が良ければそれでいい”っつー独り善がりで



 裏には



 ・・・打算。



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