御本(長編)*宵待ち*
□一話《曲者のち女中》
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それはちょうど一週間前
このむさ苦しい真選組屯所に奇跡が起きた
「わっ・・凄いな今日の飯!!旨そう!見て下さいよ!煮物ですよ!煮物!俺何ヶ月ぶりかな」
今、山崎が興奮して見ているのは隊士達が屯所内の食堂で摂る昼食だ
そろそろその頃合いで
皆が朝の鍛錬を終えてその汗を風呂でひとまず流し、スッキリとこの時間を迎えるのだ
そして腹ぺこの青年達が次々と今日の献立チェックの為に台所に集まる
「お。こっちは、おこわじゃねぇか。久しぶりでさァ」
機嫌の良さそうな沖田が釜を覗くその横では
土方も湯気のぼる鍋を覗きこんでいた
どうやらまだできたてらしい。
「味噌汁も随分具が多くて豪勢だな」
「ほんとですね。けど、今日の飯担当って確か局長でしたよね?あの人こんなんできましたっけ?」
そう、ここ真選組屯所の食事は日替わりの担当制。
厳しい女子禁制であるここには家事を行う女中などいないから隊士が日替わりでやるのだ。
食事の仕度から生活のあらゆることは全て己らで賄いやっている
ここではそれが健全な武士の当然の生活としているのだ。
「そ一いやそうだな。…朝のあのでっけえ握り飯は近藤さんで間違いねーだろうがこいつぁ、一体どいつが作った飯なんで?土方さん知ってやすか?」
沖田に訊かれるが、土方もこんな手の込んだ食事が作れる隊士の心当たりなどなかった
とは言え、このまま誰が作ったか謎のままにもしておけない。
食べる気にもなれないのだが、それよりも…
危険だ。
そう…
自分達はいつ誰にどんなカタチで狙われこの命を脅かされるかわからない。
もし万が一、この食事が罠で毒などが盛られていたら…
微かに土方の眉間に皺がよる
「……知らねーんですね?」
「…副長」
山崎と沖田も土方の様子を察しだした
副長である土方でさえも知らないとなれば
…これは怪しいのだ
「オイッ!! これ用意した奴どいつだ!?」
食堂に土方の声が響きわたる
………。
返事がない
静まり返った食堂中にいよいよ緊張が走る
が、その時・・・