御本(長編)*宵待ち*
□六話《雪寒(ゆきさむ)み》
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今朝は雪が降った。
庭先が薄く白々としている。雪をかく程のものじゃなくてよかった。
だって・・・
『ごめんなさい。っ・・・けほん!』
「安寿さん・・・まだ朝ですから寒いですし、もう少し寝ててください。」
風邪をひいたのです。
いつものように起きるつもりが弱っていた身体のせいか嘘のように1時間以上も寝過ごしてしまい・・・
皆さんにご迷惑をかけたあげく心配されて、そこで代表して山崎さんが部屋を訪ねてきたとのこでした。
熱のあるおでこにそっと優しく・・・冷やりとお絞りがかかります。
こんな薄雪化粧の今日だから一段と冷たい。
『ありがとう。山崎さん。気持ちいいです。』
「いえ。・・・安寿さん、がんばり過ぎたんですね?きっと。」
山崎さんの穏やかな話し声が病んだ今の私の全身にちょうど良くしみいる。
『・・・・そうでしょうか?』
心地よく、話をしながら瞼を下ろしてみた。
「そうですよ。だってこの何週間か、ひとりで俺たち何十人もの食事や洗濯なんてことやってくれて・・・この辺で疲れたって当然なんです。わかります?」
『・・・・はい。わかったことにしておきます。』
閉じてる瞼の向こうでそっと布団が掛けなおされる
「もう、頑固だな。仕事のことになるとホントあの人に似てますよね(苦笑)妥協しないってゆうか出来ないってゆうか・・・」
『誰ですか?』
きっと前にも山崎さんから言われた、私と似ているここの誰かのことでしょう。
まだ解らないでいるから知りたい。
「ダメです。弱ってるからって教えてあげたりしませんよ。それは。」
『じゃぁ・・・山崎さんかしら?』
「俺ですか?」
『だって・・・教えないって頑固だから。』
次第に瞼がじーん・・と重くなる。
「はは。でも俺じゃないです。残念ですけど。さぁ・・もう寝て下さい。」
『はい・・・。ごめんなさい。』
「いえ。・・・・あ、でもその前に」
『?なんでしょう』
不意だったのでつい首を横に振ってしまって、額からお絞りが下がる。
「あの、俺たちは食事適当にやるんで心配しなくていいって・・・副長に伝えろって言われてるんですけど、・・・安寿さんは何か食べれそうですか?欲しいものあれば用意しますよ?・・・ってこれも副長が(苦笑)」
山崎さんがまたそっとお絞りを当て直してくれる。
『・・すみません。私は・・・今朝はもういらないです。起きたら少し自分で動いてやります。できますから、心配しないでください。・・・と伝えてください。』
「じゃぁ・・・わかりました。安寿さんが起きる頃にはすごい助っ人を俺がここに呼んで起きます。』
『?助っ人ですか?』
「はい!だから安心してゆっくり寝てください。・・・おやすみなさい。安寿さん。」
『?・・・・オヤスミナサイ。』
あまり深く考えられなかったのでそのまま眠気に身を委ねた。