御本(長編)*宵待ち*

□八話《厄介な関係》
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あれから、皆さんのおかげですっかり私の体は本調子に戻った。

過度に汚れた服を洗濯板に擦る手にもチカラがきちんとこもる。




「おはようごぜぇやす。安寿さん。」

『沖田さん。お早うございます。』




早朝、まだ道着姿の沖田さんに声をかけられた。

汗の様子がない、さらさらの髪。

これから、鍛錬かしら?




「すっかり調子戻ったみたいですねィ。心配しやしたぜ?もうあんまり仕事で飛ばすのはよしてくだせぇ。回りがアホみたいにあたふたして困りまさァ。」

『すみませんでした。・・・でももう大丈夫だと思います。私、ひとりじゃないですから。今日も他の女中さんと分担して仕事してますし。』




ひとつの仕事に専念できるのも本当に助かること。

沖田さんの言う通り、少し自分をセーブしないとダメみたい。

もうあんな惨めな気持ちになりたくない。




「そうですかィ。ところで今日の安寿さんの仕事ってのは何なんで?その洗濯と他にこれから何やるんでさァ。」

『今日ですか?これが終わったらお花屋さんに行きますから、一緒に食材の買出しもしてきますけど・・・どうしてですか?』

「いや、別に大した意味はないんでさァ。・ただ・・・そんじゃ今日の朝飯は安寿さんのじゃないってことですかィ。そんだとちっと鍛錬のテンションが下がりやす。」

『そんな、沖田さんたら大げさですよ?』




らしくない雰囲気で言っているものだから可笑しくなる。




「・・・本当ですぜィ?」



また、そんな顔して・・・・・




『あの、沖田さん・・・・』




どうしようかと思ってるところに




「総悟。てめぇ遅刻しといてこんなとこでよく油売れんな。さっさと行くぞ。道場。」

「・・・土方さん。ちっ。何でィ、この前の騒動んときゃ俺は大人しく土方さんに出番譲って引っ込んでやってたっつーのに、これじゃマジでとり付く島もねぇや。独占欲強い男は嫌われやすぜ。大概にしてくだせェ。」

「・・・・・。」




まるで大人のように静かに話している。

竹刀を担いで土方さんを素通りして行ってしまうようだ。

その彼を見過ごして土方さんは私に向く。




「・・・・安寿。」

『土方さん。お早うございます。』

「あぁ。どうだ?ちったぁ楽になったのか?仕事。」




目を閉じて首を鳴らして、寝起きのような彼。

竹刀片手に少し気だるそう。

乾いた唇に煙草を貼り付けながら口を動かしている。


昨日も遅くまでお仕事なさったんですね。

まだ、あの時私が掛けた分のご迷惑がその中に残っていませんように。


一通り体を解し終えてこちらを見てくる。

土方さんの目は覚めて、さっきよりもはっきりして見える。




「?どうかしたか?」

『あ、いえ。そうですね。だいぶ落ち着きました。本当にご迷惑かけてすみませんでした。』


「何度も言わせんな。気にしてねぇ。それより今日飯なんだ?」

『え?・・・お魚と小鉢はなにか和え物だったかと。』

「そうか。最近、煮物でねぇな。手間だから作んねぇのか?」




一旦唇から煙草を剥がして銜え直した。

彼が今私に訊ねてることはつまり・・・




『ごめんなさい。最近私、朝食は手伝ってなかったんです。病み上がりだからって、他の女中さんが大事を取らせてくださって。』

「そうか。まぁ薄々そんな気はしてたけどな。そんでいいんじゃねーか?休める時休めよ。・・・邪魔して悪かった。じゃな。」





それだけで土方さんは行ってしまった。

去る彼の背中を見て、私は物憂げになってしまう。

でも振り払って、行かなくちゃ。


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