御本(長編)*宵待ち*
□九話《鬼の徹せん慕…》
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そろそろ動き出す。
宵闇、屯所のとある一室の前に忍べる者がひとり・・・
中に声を発す。
「副長、山崎です。」
「・・・あぁ。入れ。」
「失礼します。・・・夜分すみません。」
「・・・どうした?」
「そろそろ例の件、動かせますよ?どうしますか?」
土方は書き物途中の筆を一旦置いて、銜え煙草を一度唇から離した。
スー・・・・ッと紫煙が部屋に回る。
「そうか。いいぞ、動かして。早かったな。やっぱアイツは尻尾は出過ぎてたか?詰まんなかっただろ?お前。」
「そうですけど、詰まるとか詰まんないって話じゃないですから。仕事ですよ?」
「ま、お前にしちゃ正論だな。・・・・やる前に“あっち”には報告入れとけよ?その方が女将も段取り組み易いだろ。」
「はい。でも、それ俺でいいんですか?」
「あ?」
鬼の瞳孔が威嚇してきた。
今日の副長は美味そうに煙草を吸ってるなぁ、と思ったらつい気が緩んで余計なことを言ってしまった。
不味かったな(汗)
「な、なんでもないです。すんません。」
「わかりゃいんだよ。もういいぞ、退がれ。報告の報告も忘れんじゃねーぞ?中途半端にやりやがったら・・・」
「切腹っすね(汗)わかってますけど、もっかいよく頭入れときます。・・・では、お休みなさい。」
「おう。」
後ろ手で戸を開けて退室した。
(恐かったなぁ。機嫌良さそうに見えたんだけどな。・・・・また何かあったかな?安寿さんと。)
さっきの副長の様子を思い返しながら廊下を自室へと向かって歩く。
あの様子は、多分・・・今日に何か安寿さんとのことで起きたって感じだと思うんだ。
(・・・・んー、だったら余計、あそこへは俺じゃなくてやっぱ副長が行った方がいいと思うんだけどな(汗))
あの人はこのあと一体どうするつもりなんだろ?
結構、副長の想いは明白だけど・・・・
この件の始末がついたら・・・・発展するかな?あの2人。
まぁ一応、少なからず俺にも男心があるからそうなっちゃうと惜しいなぁ・・・・
なんて思うところもあるんだけど・・・・
(残念ながら、副長にはどうしたって適わなそうだからね。俺が自ら無駄な傷作るなんてことはしないんだ。そういうのちょっと今は無理。俺っぽくないし。)
一体誰にする弁明なんだかわかんないけど、そうこう考えてるうちに部屋に到着。
「はぁー!疲れた。さっさと寝ないとなぁ。明日からちょっと真面目に仕事しないと。」
引っ張り出した布団にしっかり包まって目を瞑った。
本当にもうそろそろ色々、外も内もひっくるめて動き出しそうだから。