御本(長編)*宵待ち*
□十一話《地味に派手》
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「スミマセン、御免くださーい。お早うございまーす。毎度薬屋でーす。」
『?あら!お早う!いらっしゃい!ちょうど、切れてたのよ、イロイロ!上がって頂戴な!』
「ども!」
今日は、前よりも少し色の入った着物をきて薬箱を背負ってきた。
しかも薬箱はちょっと大きめにしてきた。
え?どうしてかって?
『今日は地味じゃないのね?それなりにこの街の人間らしいわよ(笑)それにしても、またタイミングよかったわね?あんぱん沢山あるのよ?(笑)』
「え?ヤッタヨカッタ!毎度!実は沖田さんに俺の分も次は貰ってこいっていわれてたんですよ・・・貰えなかったら“買ってこい。じゃなきゃ殺す”って脅されちゃって。箱(これ)大きくされました(苦笑)」
「あら!可愛い顔しておっかないのね?沖田さん(笑)大丈夫よ!みっちり詰めたあげる!さっ!中、入ってちょうだい。今日は、旦那も留守だからゆっくり話しましょう!・・・・誰かー?あんぱんと牛乳用意して持ってきて頂戴なー?」
通されたのは、前と同じ奥の部屋。
ここから女将が声を張るとしばらくしてそれがちゃんと届いた。
「頂きます!相変わらず、お元気ですね!ご主人お出かけしてるんですか?」
『えぇ。今日はね、昔なじみのここのご贔屓の旦那と歌舞伎見に行ってるのよ。あなたとすれ違いぐらいに出て行ったから今日はゆっくり話してちょうだい?』
「そうですか。わかりました。」
それじゃ・・・・・
牛乳で口をなめらかにしてっと・・・・
『・・・・安寿が解放されそうなのかしら?』
「・・・・ここから一応、機密情報です。俺の独り言にしといてくれます?(笑)」
『ハイハイ・・・お勤めご苦労様(笑)』
「恐縮です(苦笑)えーっと、それじゃまず・・・・」
今日は、このまま旅館のお昼までご馳走になれるかもしれないな。
段々、旅館中に広がってきた美味しそうな匂いを嗅ぎ取りながら・・・・
オレは、なるべく丁寧に、独り言を続けた。
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半刻ほどのち。
カンッ・・・とキセルを叩いた音が鳴った。
派手な光景だな(苦笑)
『ハァー!他人の独り言を聞き逃してあげるのってなかなか難しいわね?そば耳たてまくっちゃったじゃない(笑)・・・・それで終わりかしら?』
「おしまいです(笑)本当はこんなに長く呟かなくてもよかったんですが、副長から“女将が動きやすいように”と念を押されてるので・・・・特別です。」
『あら、そうなの?それはそれは、お気遣いすみんせん(笑)』
舞った紫煙が、部屋の障子窓から浅草の街の景色の方に逃げていく。
「いえいえ。お付き合いいただきありがとうございました。」
『ハイハイ。それじゃ、今度はアタシに付き合って頂戴な?独りでお昼食べるの嫌いなのよ(笑)』
「!喜んで!!」
あまり待つことなく、目の前にご馳走が並んだ。
賄いなんだろうけど・・・・派手だな(苦笑)