御本(長編)*宵待ち*

□十二話《鬼の使者の領分》
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この件は、まだ安寿が俺達と顔合わせる前から起きてたわけだ。

最初に結論から言っちまえばこれは仕事、任務の話だ。


ただし、久方の中々な捕り物の話だった。


俺達が山崎を使って、奴らとその先に芋蔓(いもづる)の様に面倒事が付いてくると嗅ぎ分け始めた時


その朝が来ちまった。


表立ってはまだなかったが、そういう意味で真選組としちゃあ、渦中といえば渦中だったわけだ。

だからあんなもん、一見すればその雰囲気・出で立ち、更に顔つきや体つきであいつが《曲者(くせもの)》かなど、普段ならあっという間に見分けた筈なんだが・・・・

渦中であれば、ああして過剰に反応せざるを得なかった。





真相だ。

恐らく、あのタイミングで安寿が此処に来たのは・・・・





「女将、はっきり言ってたか?最初からあいつを・・・安寿をここに寄こしたのは、この件も含めて全て見通しのつもりだったってよ。」




じゃなきゃ、ありゃ少々タイミングが合いすぎだった。




「言ってませんでした。けど、この件は確実にあの時のオレより女将の方が先に嗅ぎつけてたと思います。あの人があそこにいれば当然のことだってわかりましたよ。俺には適わないです。こと、浅草・吉原の情報に関しては、今後何か必要になればオレはあそこから情報を貰うようになると思います。・・・それ程です。」

「そうか。・・・・んで、あっちはどうだ?ボンボン生きてたかよ」


「そうですね。まぁ、生かされてる状態ですよ。ヤツはあの店(たな)ごと、回りをぐるりと奴らに見張られてますね。お蔭で遊びは控えてるみたいですけど。ただもう、一歩でも吉原に出れば終いです(苦笑)」




つまり、そろそろこっちも踏みこんじまわねぇーと・・・てことか。


“捜査”の潮時だ。



山崎は暗に今、こっちの手が奴らに感づかれ始めてると言ったわけだ。


てめぇらの尻尾の先を切って始末して生き延びるつもりの虫ども。





「わかった。そんじゃ・・・・・おっ始めるか。明日以降、いつでも近藤さんのサインが出れば」

「行きます。副長と沖田さんはこちらの加勢じゃないとマズイです。あの薬(やく)・・・厄介です。お願いします。」


「当たり前ぇだ。んなことわかってんだよ、アホ。他の検挙なんかな、どうとでもなんだよ。寧ろ、んな詰まんねぇしょっ引きに総悟なんか使ってみろ・・・無駄な始末書が山となってくんのがあからさまだろが。規模が問題じゃねぇ、必要なとこに精鋭をやる。お前に言われなくても常識にしてんだよ、そんぐらい。ナメんなよ?」






一斉検挙は骨が折れる。

段取りとタイミングを間違えれば確実にしくじる。





「わかってますけど・・・でも本当に厄介なんですよ、あの新薬は。・・・・前のは、その頭から一旦忘れた方がいいです。今度のは段違いですから。中身が相当安定して、あいつら、一見正気でも急に狂って、かかって来ると思うので気をつけて下さい。」

「ああ。念頭にいれておく。・・・・寝るぞ。ここまでご苦労だったな。明日は近藤さんに労(ねぎら)って貰え。」


「はい(苦笑)お休みなさい。・・・・・・・・あ、副長」


「何だ?」





ヤニ切れだ。イライラ来やがった。

気付いたらいい時間じゃねぇか。


とっとと、美味いのが吸いてぇ。





「安寿さん、大事にしてあげてくださいよ?彼女、本当は女将そっくりだったんですよ。まあ、それに誰かさんにもそっくりで。ちょっとは気付いてますよね?・・・・もっと彼女のこと知った方がいいと思いますよ?」




最近、山崎がやたら生意気に感じんのは気のせいか?


まあいい、仕方ねぇ。付き合うか・・・・。





「・・・・そうゆうお前はもっと知ってんのか?あいつのこと。」

「んー多分、今の副長よりは。今日ちょっと知ったんです。浅草行って女将から少し話きいて、ちょっと副長を出し抜いた気ぃしましたけど・・・・」





そうか。こいつもやっぱり・・・・。

(男ってのは仕方ねぇんだな。最近の俺といい・・・・アホばっかだ。)





「でもオレは安寿さんを姐さんにできませんから。折角の彼女の器量をちゃんと活かせるのは俺なんかじゃないですもん。絶対。」




(出し抜いたって何したってオレじゃ役不足。結局最後は敵わないんだから、早めにリョウブン弁(わきま)えるのがオレらしいんだよ。)





「だからオレなんかよりもっと知ってあげて下さい。副長が安寿さんのこと。そしたらきっと、副長が初めて俺の言うことを聞いてくれたことになるんです(笑)」

「あ?んなのあり得ねぇんだよ。・・・・・・ま、そん時ゃ覚悟しとけよ?」



「嫌ですよ(苦笑)その時は堂々と皆の前でキューピッド気取らせて貰います!そっちこそ、安寿さんと一緒に覚悟しといて下さいよ?」

「あ?誰がてめぇの為にするか、んなもん。もう行け。切れてんだからマズイの吸わせんじゃねぇ。」


「ハイ、すみません。・・・・・あの、このこと直ぐに安寿さんに伝えるんですか?」

「否、・・・あいつが知るのは顛末(てんまつ)だけで十分だろ。」



「そうですか・・・任せます。お休みなさい。」






生意気な口を最後まできいて山崎は出て行った。


暫らくして、今日はいつもより遅い時間かもしれなかったが

俺は今晩も、美味い1本を吸うことを叶えて・・・・・



(悪ィな。今日は、帰りの廊下はもう暗くさせてもらうぞ。)






「頼むから上(のぼ)せて足元こじらせてくんなよ」




深く布団に入った。


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