御本(長編)*宵待ち*

□十七話《鬼の居ぬ間》
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目覚めるとあちこちが痛んでて・・・とても辛かった。

最初に、ゆっくり開けようとした瞼が…多分泣いてしまった所為で重くて辛くなって

次は…頭が痛みに締め付けられて。こんな痛みは初めてだった。


『っ…!!』


それから咽がカラカラと辛くなって、庇うように手を添えた首元の痕まで…思い出して辛くなってしまった。

その所為で昨夜の全部を思い出して…やっぱり胸に込み上げるものでも辛くなったのに、

振り払って起き上がろうとすれば追い討ちのように腰が…下肢が痛んだ。

どうせなら全部一緒に痛んで、一緒に全て消えて欲しかった。

そう思いながら、私の痕跡をあの部屋から極力消して…抜け出してきた。

土方さんがどこかに行っていた隙に起きられた私は、そのまま一旦は自分の部屋に戻ったのに

これからのことを思ったら途方に暮れかけて…とはいえ、再びの眠りも取れず

そして結局、頭の痛みが酷くなるのに気付いて…。

だから酔い覚ましが必要だし、カラダが・・・。そう思って…

もう屯所すらも抜けて早朝の街に出てきた。



探したのはこんな時間でもこの街のなら確実にやっているだろうと思ったお風呂屋さん。銭湯。

重たい草履の足を摺って、朝靄に目を凝らしながら・・・

案の定、すぐに見つけられて安堵した。


『よかった』


開いてはいたけど、流石にまだ誰もいないお風呂。

まるで屯所のお風呂を借りてる時の…いつものようだと思って情けない笑みを鏡に映した。


入るなりすぐにカラダを流してしまった。

温まりたかった。・・・どんなことでもいいからもう、安心したかったの。

なのにお湯を浴びて俯くと散らされた痕が私の思考をまた土方さんへと引き戻した。

ならばいっそ…考えが尽きるまで…それか、湯にのぼせて果てるまで

せめてカラダだけはちゃんと温めていてあげようと湯船に浸かった。


滲み渡るお湯の心地よさに瞼をおろして

土方さんへと…

数時間前の出来事へと振り返る思考に暫らくは抗わないことにした。


だってここなら誰も…


責めない。


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