御本(長編)*宵待ち*

□十九話《所在無い鬼》
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総悟のヤローの寝惚けた戯れ言をいつもらしく放って、先ず向かうつもりは脱衣所だ。

理由(ワケ)は…

いつものように洗い上がって置かれた自分の道着を回収するため。


脱衣場の棚の上に隊士全員分のが畳まれて並べられている中から、脱衣所入り口から数えて2番目。

近藤さんの隣に俺の。

これは皮肉にも、あいつの仕業…仕事だ。

昨日も俺んとこ来る前にきっちり仕事済ませてったってわけか。


「…結構なことだぜ(苦笑)」


あいつが来たあの日から続いてるこの仕事振りに…感謝ならいつでもしてたっつーのに。

今さらどうにもなんねぇかもしれねぇ。

ただ、ちっとは落ち着きてぇ。


まっさらな道着に着替えたことで多少は気が引き締まる。


袴を捌きながら入った誰もいねぇ筈だった粛々とした道場。

この中で俺も今日は淡々と素振りこなして終いにするつもり


・・・だっつーのに、慣例の朝稽古は


「土方さん、ひとつ手合わせやりやしょう。」


いつもより早い時間が祟ってこの始末。

こいつと二人きりなんざ数年振りか。


素振りでも気を統一して懇親で構えて振った竹刀に爽快さを求めるのは、今日こそ無駄かと思ってたが…

小憎らしいこいつが相手なら何とかなっかもしんねぇ。


「……その酷ぇ面…今のうちに更に潰してやりやすよ」

「…上等だ」


パシィィィ…ッ!!


「……チッ…やっぱムカつきまさァ。瞳孔戻んねぇし」

「互い様だ…」


爽快さなんざ感じやしねぇ。決着がつかねぇ限り当たり前だ。


「……胸糞悪ィ。退(ド)け。」


小賢しい総悟の足払いのワザをかわして、碌な鍛錬もできず道場を去った。


その足で洗面所に来て、並んだ数枚の鏡を絶対ぇ一瞥しねぇように通り過ぎて…

既に、朝日で明かりのいらねぇ浴場を使った。


「一旦、頭冷やして…戻りやがれ」


いよいよ鏡に映る汚っねぇ最悪の面(ツラ)に頭から水ぶっかけて

悪酔いを…悪辣非道を懲らしめた。


「……ッ」


身震い堪(コラ)えてもう一度顔上げりゃ、


「冷えたかよ」


瞳孔に、程度がせいぜい“不機嫌”の俺が…大層な肩書きの俺が戻った。

これで……“最悪”の方は何とか夜まで封じてぇ。

じゃなきゃ…公私混同…士道不覚悟で終いだからな。


「あ!副長。おはようございまーす。はは(笑)今日は、何かセット念入りっすね!やっぱ気合い入れっすか?今日こそは出動ありますかね?」

「フー…ッ…原田……いいからテメェはその頭でもよーく磨いとけ」

「…ひでぇ(涙)」



風呂上りの一服も侮れねぇ。

吐く度多少は気が紛れてペースが戻る。


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