御本(長編)*宵待ち*

□二十話《奔走迷走》
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いよいよその日。


『近藤さん、お体大丈夫なんですか?』

「ハイ!安寿さん!心配いりません!」

『…そうですか。それじゃ、あの……皆さんどうかお気をつけて』

「炊き込みご飯とウマイおかず多めに作っといて下せェ。帰ってきたらタラフク食いやすんで」

『わかりました』


だけどきっと、夕飯の時分には…まだ…なのでしょう?


履いた靴をトントンと地面に打ってチャキリと帯刀を正す沖田さんの背中。

会話すれどもそれしか見せて貰えない。


「土方さんは肉じゃがとマヨ、注文しなくていいんですかィ?」

『……。』


見つめても私には見えない向こう側で、白煙だけ揺らしている後ろ姿。

どんなに見つめても

このままその車で去るまで微動だにもして貰えなそう…


だけど…

見ていれば、彼の足元に短い煙草が落ちてきて地べたにジリッと揉み潰された


「…俺はいつも通りの量にしといてくれ。行くぞ」

「焦らしやすね。…だ、そうですぜ?」


やっと振り返って顔を見せてくれたのは沖田さんだけ。

その顔と声の中には少しだけいつもの沖田さんが戻ってイタズラ心。


『…はい』



見送る背中が不謹慎にも凛々しい。


でも、私はここに来て、今日程彼らのあの真っ黒い隊服が重苦しく見えたことはない。

車に乗り込んで行く足並みはバラバラ。

だけどあの人達は皆、同じトコロへ向かってく…

前夜から厳しい気をピンと張り続けて…

それを思い切り弾かせられるトコロへ今、揃って行ってしまった。


もう、見送った道の先に彼らの車は見えない。

私にとって、今日は昨日よりも長い日だろうと思えた



…そんな日の始まり。



『どうか務めて…ご無事で』



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