誰かを探し続けた俺を。

□1.ひゅるりひゅるり。
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「…ッ」
 登校するには早すぎる午前5時。
エアコンが夏特有の唸り声をあげている一人暮らしの小さなアパートで、特徴的なアホ毛を持った少年は突然目を覚ます。
 澄んだ瞳には一筋の涙と多量の汗。
 いつもめったな事じゃ起きない彼ーフェリシアーノ・ヴァルガスがこんなにも早く起きた、起こされた理由は、夢であった。

 その中で見たものはあまりにも写実的で、それでいて何処か認め難くもあった。
 最近、彼はある種の総合性を持つこの夢を毎夜見るようになっていた。
 そして、その中で聞いた怒号には、激しい怒りの中に何処か懐かしい感覚を感じ取った。
『−せよ‼』
と。
 その声は雨の降る夢の中の空を貫き、現実のフェリシアーノを毎夜起こす。しかし夢は夢なので、最初から最後まで完璧にあるわけではなく、じりじりとノイズのようなものに交じって脳内にぐわんぐわんと響き渡る非常に厄介なものだった。午前5時という時間帯はフェリシアーノにとってはまだ夜だった。
 間違いない、と渋い顔を浮かべながらフェリシアーノは重い身体を起こし、確信する。
 その声は、疑い用の無い自分の声である事を。

ーああ。またこの夢か。





と言うものは
そんなに重要なものではない。
 そんな事は常識だと思い続けていたフェリシアーノにとって、この夢は全くもってイレギュラーな存在だった。
 その理由としての最も大きい事は、

死。

人生における、終止符。

 それによって毎夜の夢が終わると言う最悪の展開だった。
 彼が、この夢を見続ける前に見ていた夢は、例えばパスタに埋もれている夢などで、別にパスタに埋もれて死ぬ訳ではないのではっきり言ってどうでもいいものだった。
 だが、この夢には重要な何かを感じていた。
 何か、ある。
 そう思った彼は、埃を被った一冊の日記帳を荒々しく引っ張りだし、そこに今日見た夢の内容を書き出した。 無理矢理起こされているので時間はたっぷりある。
 が、夢は夢なのではっきりと思い出す事はできず、結局『灰色』『時計』『もち』と言う断片的なキーワードしか書き出せなかった。
 何をやってもうまく行かないなー、と、手に持っているペンを何気なく放り投げてみる。
 何となく 、フェリシアーノとある友人から貰った機能的な目覚まし時計を見てみた。

 時計の針は、止まる事無く、そして戻る事無く正確に時を刻んでいた。
 何故か、ふと思い出す。

 夢の中で、息を止めた仲間達の笑顔を。

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