あめのちたいよう

□曇り。
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何年か前のとある朝。


「じゃ、行って来るぜ。」
いつもと同じ笑顔で、プロイセンはケセセッ、と笑う。そして、プロイセンはドイツの頭に手を乗せる。その後に、二人にしか聞こえない位の音量で、いつもと同じ様に、
「俺の弟なんだからな」
と言う。

 これが最近、生活の一部になっていた。
しかし、ドイツには未だにこの兄の行為の意味が分からなかった。
いや、分かろうとしなかったのだ。

 毎朝何処に行っているのだろう。
 『俺の弟なんだからな』の意味は何なのだろう。
 何故それを二人にしか聞こえない音量で言うのだろう。
 何故…

「…いや、それは無い…か。」
 ドイツは考えたくも無いその『問い』を振り払う様に、声に出して言ってみた後に、プロイセンの出ていった玄関から、またいつも通り自分の部屋へと踵を返した。




ドイツ達のいる家を後にし、プロイセンはガシャガシャと防具や武器を装備する。ドイツのいない所で『武装』するのは、彼なりの配慮だった。
「…で。どうなんだ、うちの軍は?」
と、プロイセンはフリードリヒに靴を履きながら聞いてみる。だが、その問いに対する答えは彼にとっては分かりきった事だった。
「先攻隊が今相対している。状況は…劣勢」
嫌悪感にあふれた声で答える彼はプロイセンの上司であり、彼はプロイセンの大切な人の一人だった。
「だろうな」
プロイセンは剣をとりながらあっさりと答える。
相手はオーストリア。
のちに言う、『七年戦争』である。
七年戦争は、ヨーロッパにおいて、イギリスの財政支援を受けているプロイセンと、オーストリア・ロシア・フランス・スウェーデン・スペイン(1762年参戦)及びドイツ諸侯との間で起こった戦争である。
オーストリアとフランスが結んだ外交革命、、プロイセン軍400万対オーストリア軍8000万と言う圧倒的な人口格差などもあり、プロイセン軍はオーストリア勢に圧倒的な引けをとっていた。
これまで様々な戦いに身を投じてきたプロイセンだったが、ここまで難しい戦いに出会ったのは始めてだった。
しかし、プロイセンはたじろいだりはしなかった。
これから起こる出来事を、自分にはすべて受け入れる確かな覚悟と自信があると信じていたからだ。むしろ楽しんでいたのかもしれない。しかし、

その先に、何があっても、自分の覚悟と自信は折れる事はないだろうか。

その考えてはいけない疑問を隠したいがためにその楽しみは生まれてくる物なのかもしれないという事も考えてしまう。彼は昔からそういう性分なのだ。
「そろったか?」
「ああ。勿論だ」
「…さ、じゃあいっちょやるか」
プロイセンは様々な感情を持ったままフリードリヒと一緒に皆が待つ戦場へ歩いて行った。彼等は皆の自信に満ち溢れた顔に安堵する。そして面前に立ちするりと剣を抜き、深呼吸をした。
「我らはこれより戦地に赴く。しかし恐れる事はない!共に戦う戦士を信じろ。もし今日自らの命を失ったとしても、我々はその命を決して無駄にする事はない。だから…みんな、楽しんで来いよ!」
そうプロイセンが言うと、400万の戦士たちは「十字軍に栄光の光を!」と戦場にごうごうと声を響かせた。その様子を見て、プロイセンとフリードリヒはお互いの顔を見合わせてニヤリと笑い、剣を鞘に戻した。


足を一歩一歩踏み出す。
一つでも間違えれば崩れてしまいそうな気がする道を。
ただ、その先にはきっと正解があると信じて。



...空の太陽を黒い大きな雲が隠し始めた頃だった。

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