赤目。兄さん。そして不憫。

□考える気力がないorz
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「いやぁ…いいよねギルたん」
「そうっすねー、灼眼とか最高っすよ」
「おお?炎髪?炎髪?」

 そんな(特定の人物に需要のある)会話を、とあるバンの中で狩沢と遊馬崎がしている。同乗している俺ー門田涼平は、辛うじてほったらかしだ。いつもなら渡草がいるのだが、「聖辺たんが呼んでいる(気がした)」と言ったきり帰って来ていない。渡草の走って行った方向をよく見ると、聖辺ルリが800mは先の道端でライブをしていた。風のように走り去った渡草の鼻息は荒かった。なんだあいつ。
 ささっと自己回想を終わらせた後、俺は座っている運転席からガバッと後ろへ向かって勢い良く振り返り、
「お前らちょっとは空気読め…!」
と、気を回す。なぜなら、現在情報屋折原臨也を絶賛追跡中だからだ。理由は
簡単。興味だ。しかし、臨也にバレると実に面倒なので、なるべくエンジン音を出さないようにのろのろとバンを走らせて?おり、イライラとバクバクで俺の頬には汗が滲んでいた。
…何度でも言う、あくまで興味である。
「こんなイッケメソなのに…wなのに…wwアヒャwww」
「もぉー狩沢さんお茶目なんスからぁーww」
 そんな俺には目もくれず、狩沢と遊馬崎は会話を続ける。因みに現在狩沢はスマートフォンから某漫画投稿サイトで『黒鷲主従』、『東西兄弟』等を連続で検索しており、それを遊馬崎が覗き見している状態だ。未知の世界をこいつ等は実に約3時間展開していた。時の流れは残酷だ。R禁はご了承下さい。
「世界んだろオイ…」
と、ガキの頃想像していた『今』と、現在進行形の『今』とのギャップが絶壁並みにある事に絶望するかの様な声を無意識のうちに発してしまった俺に気づいているのか気づいていないのか、狩沢は「ねーねードッタチーン、ちょっとは私達と新世界の扉開こーよー」とか言って来る。なんだよ『ちょっと』って。新世界の扉に手を置いた瞬間「おっと手が滑った」とか言って全開にさせるアレだろ、アレ。なんだっけ。
 続けて狩沢が『ギルベルト・バイルシュミット』という人物の映ったスマホをグイグイと俺の顔に押し付けて来た。お前はもう画面ん中で生きてけ。


(^p^)な遊馬狩。
微妙に気にする俺。
今日は至って平和だ。

が。 

「…ん?」

そこで俺はある事に気づいた。いや、気づいてしまった。

「ちょっとそれ貸せ」
俺は、狩沢が押し付けてきたスマホを超高速で奪い取り、画面に映った銀髪赤目の男と、いつの間にか目の前に居る黒髪赤目の情報屋ボッチの顔等を交互に凝視する。
「どしたんスか門田さん共鳴っスか門田さん」
と声をかけてくる遊馬崎を、
「……」 
と、パーフェクトスルースキル『沈黙』で華麗にスルーし、俺は脳の解析力をぐおおおおおお、と上げ始める。


ああ…
赤い目。
兄的キャラポジ。
どこに出しても恥ずかしくない不憫。
間違いない。
学生時代の記憶は鈍ってはいなかった。
…が。

「こいつ…臨也に似てないか…?」

その事について俺がつい口を滑らしてしまった事に絶望した後、叫び出したくなる程気持ち悪い静寂が起こる。
…そして5秒後。

「「ほお…?」」

驚異的なシンクロ率で遊馬崎と狩沢がこちらを見やがった。

《面白いもん見つけたッス狩沢さん》
《そーだn┌(┌^o^)┐hshshshshshs…》
《そいつは召喚せんといて下さいww》

こいつ等は俺にも分かるアイコンタクトを繰り広げた後、慌ただしくバンの中にある『拷問』と書かれたスペースを荒らし始めた。ゴソゴソという物と物が擦れる音に混じって、狩沢の「ぐふ…ぐへへ…」という奇声が聞こえる。すごく嫌な予感がするのは俺だけか。
「…お」
「「…?」」
とても素敵な笑顔をこちらにぎゅるん、と向ける狩沢。

「こんな所にスタンガン様が」

当 た り や が っ た 。

「とりあえずその物騒な物を置けアホ」
咄嗟にツッコミを入れる俺。かき消すような勢いでキラッ!と親指を立てる遊馬崎。
ただでさえバレたら面倒な臨也に今度はおやすみなさいしてもらうのか。永眠しないだろうか。心配ではないが。
「門田さんwwwちょwwwおまwww」
「みwなwぎwっwてwきwたww」
…こいつ等が完全に調子に乗っている事に気づくまでにそう時間はかからなかった。
それから「そぉい!」という活きの良い声が聞こえ、そちらを振り返ると、狩沢は今にも出撃しそうな体制をとっていた。そして不敵に口角を吊り上げながらバンのドアを開ける。
「お、おい…!!待てっ!!」
ほぼ反射的にスタンガンを持った腕を持ってこちら側に引き戻そうとするが、通常の3倍のスピードで狩沢は出ていったため俺の行動は意味を成さなかった。あいつの口角はこっちからすると寒気がする程上がっていた。


「かはぁ…」
魂の抜けそうになるため息が知らないうちに漏れ、俺はハンドルにぐでー、ともたれかかる。すると、とバンについている蛍光の時計が視界に入った。
よく考えてみると、最悪な静寂から狩沢出撃までの時間はなんと約一分しか経っていなかった。そのまま素早さを他に活かそうとは思わないのだろうか。いや、無かった事にしてくれ今のは。うん。

その後、遊馬崎は「ブ○ーチ(某ヘアカラー)買って来るッス」と言って近くの薬局に走っていった。暇だ。無性に暇だ。しかし狩沢を置いて帰る訳にはいかないのでその場で待機。

…不条理な世界程、愛おしく感じる物なんだなと、俺は静かに苦笑した。

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