fallen angl

□W
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「良い人だと思ったんだけどなぁ……」

「アレンくん、どうかした?」



 神田に手を引かれてだんだんと小さくなり、ついに角を曲がって見えなくなってしまった香撫をみてぽつりと呟くアレンにリナリーが不思議そうな顔をして聞いた。
アレンは割りと近い場所から声が聞こえたことに驚き思わず、わっと一歩後退しそれに気が付いたリナリーが苦笑いをしてごめんなさいと謝った。



「あ、もしかしてカナデのこと見てたの?」


「カナデっていうんですか?」



「ええ、カナデ・アカツキっていうの。彼女、凄く優しいのよ。今回はカンダが任務帰りで不機嫌だったから挨拶できずに行っちゃったけど今度会ったら話してみるといいわ」

「あの…、僕の腕を見て気持ち悪がられたりはしないのかな……って思ったりしちゃったんですけど」



ハハハ、と少し眉の端を下げて笑うアレンにリナリーはニコッと笑顔で大丈夫だと告げる。



「カナデは本当に優しいのよ、私も小さいころから良くしてもらったの」

「え、じゃあカナデとは昔からの仲なんですか?」

「ええ、かれこれもう7,8年は経ってるんじゃないかしら」



へぇ、とその年月に感心するアレンにリナリーはでも、と続ける。



「きっと過去に辛いことがあったんじゃないかしら。カナデは私のこと大切だって言ってくれるけど大切な“家族”だとは言ってくれたことないのよ。
……いつもどこかで一線を引いてるって感じかしら。だから私はカナデにまずは名前を呼んでもらいたいの、リー嬢じゃなくてリナリーって」

「きっと大丈夫ですよ」

「…うん、ありがとうアレンくん。さ、いきましょう?」

「はい」

















「ユウ、どこに行くのですか…っ?」


乱暴に腕を掴まれて歩き出してからどのくらいの時間がたったのだろう。男女の差への配慮などこれっぽっちも知らないと思わせるような足の速さに時々縺れそうになりながらも必死についてく。行き先を聞き出そうとしたとしてもどこから見ても明らかに不機嫌な彼は聞き入れるはずも無く「黙れ」と一蹴されてしまった。



キリキリと掴まれた腕が痛む。だがそれをこの場で言えるほどの権利は私にはあるはずもない。きっと痣になるだろうと頭の隅で考えながら腕を引かれるままに小走りをしていた。



「…チッ」

「…ッ、……ユウ?」



人気のない廊下でいきなり盛大な舌打ちと共に神田の足が止まり香撫も衝突してしまわないように慌てて足を止めた。
神田は香撫に向き直りそのまま掴んでいた腕をちらりと一見してからグイッとその腕を上に引き上げた。神田以外の人間……。そう、たとえばラビだとかあのクロスの弟子などが相手なのなら絶対にしないへまをしてしまい香撫は神田の胸の中に雪崩れ込むような形で飛び込んだ。

神田はふ、と口角を上げその首筋に顔を埋め、そのまま動かなくなる。香撫は、此処が自室ならそのまま動かずにじっとしていたかもしれないがいくら人気がないといっても此処は廊下であり、いつ教団の人間が通るかわからない場所なのだ。すこし慌てて神田の様子を伺うが神田は自分は知らないとでも言うようにその体制を崩さない。


「…ここは人が来ますよ、ユウ」

「…………自室ならそれは崩れるのか?」


「それ…って」


人並みにはあるであろう頭を必死に動かしそれがなんであるかを考える。
そして香撫の頭の中で一つ、思い当たることが見つかった。



「…口調のこと、ですか?」


「当たり前だろうが、変なしゃべり方しやがって」



びしっとデコピンされていつの間にか顔を上げていたユウに抱き上げられる。そして抵抗らしい抵抗を微塵も見せなかった私に機嫌が良くなり始めたようで思わず小さな溜め息を吐いた。

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