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□覚醒
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『ピーンポーン』
誰かが僕の家のチャイムを鳴らした。
「母さーん、チャイム」
そう呼び掛けてみるも、母さんの返事は無い。
「あ、さっき出掛けるとか言ってたんだっけ亅
思い出し、溜め息を吐く。やりかけの参考書をペンを挟んだままぱたん、と閉じ、椅子から腰を浮かす。
階段をゆっくりと物音を立てないように下る。
階段のすぐ下の玄関。その扉には厳重そうに、いわゆる二重ロックが掛かっていた。あれ、母さん居るのか。階段の脇を覗くとキッチンの扉からは光が漏れ、呑気な鼻歌と何やら煮込んでいる様な音が聞こえてくる。
今度はがっくりと肩を落とし、深く溜め息を吐いた。
そして再度玄関に視線をやり、どうせ今言った所で『出て頂戴』なんて言われるオチなのだ。
この時の判断力の鈍さが後で後悔する事になるなんて思わなかった。母さんに出て貰うべきだったのだ。
僕はがちゃり、がちゃりと鍵を外し、外に立っている来訪者を確認もせず、況してや何かの準備もせずに、無防備に玄関の扉を開けたのだ。
ゆっくりと扉を開け、その先に立っていたのは。
「………やぁ」
案の定、僕の幼馴染みのC太だった。
栗色の癖っ毛が風に揺れている。褐緑の瞳は真っ直ぐに僕を見詰め、まるで心を見透かしているのかとさえ思えてしまう。
「…何だ、C太か。何かあったの?こんな変な時間に」
変な時間、というのは、みんな家に帰り、晩御飯を食べている時間、という事だ。因みに、今は6時である。
「うん、別に用は無いんだ。けどさ」
急に声色を変え、目を細めるC太。
「ちょっと、して欲しい事があるんだけど」
そう言って僕の腕を乱暴に掴み、C太は家に押し入って来た。
「えっ、うわ、ちょ、何!?」
突然の出来事に対して、素直にびっくりする。
そんな僕とは反対にC太は余裕綽々の表情で、片方の口角を歪める様に釣り上げている。
C太は黙れ、という様に僕の口に無理矢理指を突っ込んできた。C太の細めだが結構な長さのある白い指が口内に侵入する。噛み切ってやれば良かったのだろうが、そこまで気が回る程僕は冷静ではなかった。
そのまま家に連れ込まれる。(まぁ自分の家なのだが。)
C太は僕の後ろに回り込み、二階の僕の部屋へ行くように指示をする。
何がしたいんだ、この幼馴染みは。
昔から、行動の一つ一つ、理解出来ない事が多過ぎた。みんなにはへらへら愛想笑いを浮かべて取り繕う癖に、僕に対しては何時だって本来の意地の悪いC太が曝け出てくるのだ。
全く、扱い辛い事この上無い。
そんな事を思っている内に、僕の部屋に押し込まれる様に中へ入らされる。
C太は後ろ手に部屋の扉を閉め、がちゃり、と金属音を立てて鍵を閉めた。
その鍵を閉める意味に気付き、理解すると血の気がさぁっと体中から引いていくのを感じた。背筋を伝う冷や汗が冷たい。
C太は僕をベッドに叩き付ける様に突飛ばした。やっと後ろで締め上げられていた両手が自由になり一安心するのも束の間、C太はまた僕の手を掴み、扉の鍵とはまた違う、軽い金属の音を手首に落とす。
それは、刑事ドラマ等でよく目にする、メジャーな銀色の手錠だった。
何故こんな物を持っているのか、況してや何故こんな事をするのかを考える暇もなく、僕に繋がる片方の手錠はベッドの足(運悪い事に僕のベッドの足は太い部分と細い部分があり、丁度細い方が手錠のサイズとぴったりなのだった…)にがちゃりと嵌められた。
「ちょっと、C太!?何これ…何でこんな物…わ、ちょ、……」
片方の自由な方の手にもがちゃりと嵌められる。
仰向けでベッドに拘束された。何のAVですかと突っ込みたい所だが生憎そんな雰囲気でもなさそうなので出かかった言葉は飲み込む。
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