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□覚醒
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言う通り?
何の?
「あのね、オレA弥の事もう好きで好きで大好きで、……好き過ぎて我慢の限界なんだよね。……ねぇ、オレの為に、壊れて?」
そう言うと、C太は僕に跨がったまま自分の身体を起こし、ポケットから細い、ある程度の長さのある物を取り出す。それを僕の目の前にかざす。
それは、本来工作等で使用する良く切れそうな“カッター”だった。
かちかちかちかちかちかち。
ゆっくりと刃を出す。ぎらりと研ぎ澄まされた銀色の刃が覗く。その刀身の輝きと、C太の、微笑みを浮かべ恍惚とした表情を見て戦慄する。言葉も出ない、というのはこの事だろう。
「A弥、A弥、A弥、A弥、A弥、……どうしてこんなにも、壊してみたくなるんだろう?A弥の事が大切で大切で、傷つけたくなんて無いのに……。はぁ、オレのA弥……」
なんて、うわ言の様に呟く。こいつ、頭がおかしいのか?気違いなのか?そんな言葉が脳裏に過る。言っている事が滅茶苦茶で、支離滅裂だ。焦点すらも定まっていない。
「……C太、何、言って」
「A弥、好きだよ」
また言葉を遮られ、何回目になるか分からない告白を囁かれた。
「だから、…いい加減オレの愛受け止めなよ?」
そう言い放つと、握っていた銀色の刃を僕の左腕の付け根、正しくは左肩に思い切り突き刺した。
「ひいっ!!あっ、ぐっ、C太ぁッ!」
カッターは徐々に肩にめり込んでいく。今までに経験した事の無い激痛が左肩を襲う。溢れ出てきた血液が制服に染み込み、赤黒い染みを作る。
「痛い?A弥、痛いの?オレの刺したカッターで痛がってくれてるのかな?嬉しいなぁ……」
嬉しくて堪らないといった心情が手に取る様に分かるC太の活き活きとした声。
突き刺したカッターに更に力を込め、ぐりぐりと抉る様に回転させる。
「ああああああああッッ!!ひ、い、ぐぅっ、ああっ、はっ、あっ!!」
もう痛さが尋常じゃあなくなってきて、脂汗が染み出てくる。さっきより更に出血が酷くなり、制服の肩の部分はもう血液でびしょびしょで気持ちが悪い。生臭い血の臭いで頭がくらくらしてくる。
するとC太は傷口に鼻腔を近付け、まるで香水やその類いの物の匂いを愉しむ様に血の臭いを嗅ぐ。カッターは刺さったまま。
「……A弥の匂いがするよ」
クスリと笑うと、もう痛みで脱力した僕の唇に再度触れるだけのキスをして、C太の顔はゆっくりと下へ移動していった。
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