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□覚醒
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C太はふっ、と嘲笑するかの様に笑うと顔を上げ、身体を起こす。
C太の顔はまた僕の顔の位置まで戻り、腰を浮かせて僕との間隔を少し作る。明らかに品定めで、余りにもあからさまに『次は何をしようかな』という見下す様な表情。
僅かに力が入るようになった重い身体に鞭打つ様に腕に力を入れ、上半身を起こす。起こす、というよりは壁に寄り掛かる感じでずり上がったという方が合っている。だが僕の両腕はベッドに拘束されている訳で。大して位置は変わらなかった。
…C太の瞳には僕はどう映っている?
浅い呼吸を激しく繰り返し、力無くC太を睨む。そんな僕を見てC太は少し笑った様に見えた。C太の物とは思えない位の低い声で言い放つ。
「あのさ、そんな目されても別に怖くないし…え?誘ってんの?」
下から見上げるC太は凄く色っぽく見える。女子がこんなC太を見たらきっとドキドキしてしまうのだろう。男の僕ですら少し見惚れてしまう。濡れた唇が証明の光で怪しく光る。
C太は小さく、ちっ、と舌打ちした。
「……何とか言えよ、A弥ぁ…」
そう静かに呟くと、C太は僕のシャツに手を掛け、思い切り開く。ボタンが一つ引き千切れ、パチン、と床に落ちる。
「ッ!?C太ッ、何するんだって…!」
こんな事をされたら誰だって動揺する。今更ながら、中にカーディガンなんかを着込んでおくべきだったと自分を恨む。何しろ季節が季節なのだ。今の季節カーディガンなんて着ていたら汗ばんでしまう。だが言い訳なんて意味を持たないので防御力ゼロのブレザーなんかを羽織っている事を酷く後悔した。
…まぁ着ていても精々時間稼ぎ程にしかならないか。
せめてもの抵抗として上半身をC太から背けようと腰をずらして藻掻く。だがC太は僕の首元を右手でがっしりと鷲掴みにする事でその抵抗を強制的に阻止する。気道が少し塞がれ息が詰まる。
「何って、…ははっ、A弥セックスも知らないの?本当に可愛いなぁ…」
また、C太の唇が醜く歪んだ。C太が先程からずっとにやついている意味が少しだけ理解してしまいそうになり、怖くて考える事を止める。
“……そうか。C太は。”
一瞬ぐらりと脳天を揺らされた感覚がした。C太はぺろ、と唇を舐める。
“……自分で自分を誤魔化して、演じ切る事にしたのか。”
何かを口に出そうとしたが、僕の衰弱した掠れた喉では声が出ず、ただ空気が抜けて行くだけ。諦めるのは赤子の手を捻るよりも簡単だ。だが、諦めて良いのか?こうする事がC太の為になるとでも?そんな事を思っても言葉が出ない。止めろ、と。一言言うだけなのに。だが、言ったとしてもC太には僕の声は届かない。考えるだけ無駄なのだ。
……何て滑稽。
滑稽だよね。僕も、C太も。
本当、笑っちゃうよ。
C太は僕の肩に食い込んだままのカッターナイフをおもむろに掴むと、一気に引き抜く。
「ああっ!…いっ…た、うっ……」
外気に触れる傷口。中から何か温かい液体が溢れ出てきた。もう麻痺している様だった。かろうじて何か皮膚の表面上の体温よりも遥かに温度の高い液体状の物が肩を伝って落ちているのは分かった。
C太は激痛に表情を歪ませる僕に構わず、僕のズボンからベルトを引き抜く。
気付いた時には遅かった、というやつだ。
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