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□覚醒
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僕に見せ付ける様にベルトを両手でぴんと引き延ばしてみせる。漆黒の革は妖しく光を帯びる。
「A弥も流石に手錠掛けっぱなしは辛いよね…?今外してあげるからね」
C太は先程とは至って違う雰囲気で、柔らかく微笑む。本当に何を考えているのか全く分からない。その笑顔からは底知れぬ悪意が感じられ、逆に恐怖感が沸き起こってくる。
C太はズボンのポケットから銀色の小さな鍵を取り出し、僕の手首をきっちりと掴みながら手錠の鍵を外す。かちゃんとベッドの足に手錠がぶら下がる。もう片方の手首の鍵も同様に外す。そんなしっかり掴まなくても僕にはもう抵抗する力なんて残っていないのだが、結局は言っても仕方の無い事なので口を閉ざす。
C太は器用にベルトで両手を縛り上げた。丈夫な革を何回も強固に巻き付けて。正直凄い痛いのだが。
そのベルト固めの両手を僕自身の頭上に持っていかされる。左肩が尋常じゃない痛さに見回れているが生憎、不幸中の幸いというか何というか、痛みに慣れてきていてあまり気にならなくなってきていたという感じだった。こんな状況で何だが、慣れって怖いと思った。
人生の中で、痛過ぎて麻痺してくる感覚を味わう人間の方が圧倒的に少ないだろう。そんな経験、僕だって一回あるか無いか位だと思う。勿論僕も無い方が良いと思うし、そんな事が無い様に密かに静かな、“誰にも見つからない様に”当たり障り無い生活を送って来たつもりだった。…どこで間違ったのやら。何時もの僕だったら溜め息なんて洩らしている所だったろう。だが溜め息なんて吐ける余裕、余力が有るのならば逃げる事に力を使いたかった。余力というか、既にもう普通の抵抗力すら残されていない僕が言えたものでも無いのだが。C太が僕の太腿に腰を下ろした事によって、その人並みの重みで一気に現実に引き戻される。怪訝そうな顔をして僕の瞳を覗き込む。
「A弥……?何か余計な事、考えてない?」
「ッ!?…ひ」
思わず声を上げてしまった。それもその筈、C太の右手はがっちりと、ズボンの上から僕の無防備な物を握り込んでいたのだ。厭でも身体は反応する。
「A弥、何考えてる?オレ以外の事考えるのとか、凄く不快なんだけど」
不機嫌さが十分に含まれた声は怒っているようにも拗ねているようにも聞こえた。右手の力は一向に弱まる気配が無い。お前の気持ちなんて知らない、放せ、と怒鳴り散らしてやりたい。こんな無理矢理押さえ付ける必要性が何処にある?行動の全てが理不尽だ。
そう自分に言い聞かせる事で精神を落ち着かせる。
「…そっか、オレの事嫌いなんだ?」
C太は右手に一気に力を込めた。
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