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□独裁
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A弥の瞳は恐怖とか、怯えの色が滲んでいて、妙に腰の奥がずく、と疼くのを感じた。
顔自体はこちらを向かせる事に成功した訳だが、まだ逆らおうという気力が有るのか、視線は逸らしたまま合わせようとしない。何て反抗的なペットなんだ、なんて思ったが、この様なペット扱いは今現在の様な状況下のみであり、明日の朝にはもう“大切な恋人”という存在に戻っている為、そんな考えは今日はしない様に極力努める。
実際、先程突っ込むまで意識が蚊帳の外だった身としてはそこら辺の所は確実とは言えないのも事実だが。
珍しく下手な真似をしたと心から反省した。何事も計画的に。
例え、それが社交であったとしても。
例え、それが性交であったとしても。
例え、それが殺人であったとしても、だ。
衝動的な行動は命取りである。
「…ねぇ、A弥…。A弥の声、聴きたいんだけどなぁ…。黙ってちゃ分かんないだろ?いつもみたいに“C太大好き”って言って?」
子供に言い聞かせる様な口調で言うと、A弥は僅かに口を開き、目を細めた。目を細めたせいで涙の流れる量が増え、酷く艶やかで、厭らしくなってしまった。
それに、さっきからオレが何か言う度にきゅうきゅう締め付けてきて、それだけでも正直耐えるのが限界なのに、そんな表情をされたら今直ぐにでも達してしまいそうだ。
オレはゆっくりと息を吐き、間違っても出ない様になるべく意識をそちらに集中させて、A弥ににこ、と笑って見せる。
「……良い子」
手をA弥の顎からなぞる様に離すと、震えるA弥の手をシーツから引き剥がし、指を絡める。行き場を無くした子供の様に、必死にすがり付き、忠実に、一層強く握り返してくれる。先程からずっと良い所に当たっているのか、A弥はびくびくと身体を震わせ、締め付けも強くなっていた。この状態で動いたりなんかしたら直ぐ気絶しそうだな、なんてそんな事を思った途端、A弥は悲鳴の様な声を絞り出した。
「しっ、C太ぁ…っ、ん、も、止めよ…?ひぃっ、んっ、ぁ…っや、やぁ、やだ、やだってば、ひッ…ぃ」
A弥の発言の最中に少し腰を動かすと、それだけでA弥は酷く反応を示した。やだ、なんて口では言うが、A弥の言っている事は本心とは真逆である事の方が多い。そんな事は分かっている。
そしてA弥は嫌々と言わんばかりに首を小さく横に振った。その嬌声はオレの意識も思考も、全ての理性もを掻き混ぜるミキサーの様で。積み木崩しの様に、ドミノ倒しの様に、意とも簡単に、美しく音を立てて崩れていった。
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