「はっ………やっ……たぁっ!!」

星空の瞬く夜、私は一人城の外の人気のない場所で、愛刀を振るっていた。



決意


「まだだ……まだ足りない」

力が。


つたう汗にも構わず何度も愛刀を振り下ろす。
これは最近、夜王子が休んでから私が寝るまでの間の日課になっていた。

王子の手から大切なものが溢れ落ちていく。それと比例するかのように、王子の背中はどんどん逞しくなっていった。

そうして私は気づいた。私は王子の背中をお守りしているのではない。私が王子の背中に守られているのだと言うことを。


強くなりたい。


それから私は毎夜こうして襲い来る焦燥感を拭い去るように、疲れ果て何も考えず、泥のように眠れるように、と鍛練をする。

いつの間にか、王子のお側にいることに恐怖を覚えていた。足手まといになるのではないか。私のせいで王子の身に危険が及ぶのではないか。
常に不安が身に纏う。


強くなりたい。こんな不安を感じないですむくらいの力がほしい。



「こんな時間にまで熱心な事だな」

不意にかけられた言葉に私は弾かれたように声のする方を振り向いた。

「ゲオルグ様…」

そう、そこに立っていたのは、ゲオルグ・プライム。フェリド様の友で女王騎士の一人。そして、今は女王殺しとして国から追われている、王子の良き理解者だ。

「やみくもに刀を振るうのはあまり感心せんな」
「…………」

私は答えられなかった。きっとこの人には私の思っている事など見透かされているだろう。何を言っても言い訳にしかならないし、彼が言っていることは間違いではないのだから。

「まあ、何も言うつもりはないさ。ただ、主に心配かけるのはあまり良いとは思えんがな」
「王子に…心配……?」

言葉が飲み込めず眉を潜める私に、彼は笑ってぽんと私の肩を叩いた。

「ま、ほどほどに、な」

おやすみ、と言って彼は見を翻し去っていく。
私はその背中を呆然と見送っていた。けれど、やがて彼の肩越しに見える、よく見慣れた人影に気づき、身を硬直させた。

「お………うじ………」

目を見開き、やっとのことで名前を呟いた私に、王子は気まずそうに苦笑いしゆっくりと近づいてきた。

「見つかるつもりはなかったんだけど…ゲオルグにはめられちゃったかな」

そういって肩をすくめると、王子は空を見上げた。

「今日は星が綺麗だね」
「………何も…聞かないのですか?」

私は王子の言葉には返事をせず、自分の疑問を重ねた。王子は相変わらず空を見上げている。

「聞いてほしいの?」
「…………いえ」
「じゃあ聞かないよ」

かぶりを振る私の方を見、王子は優しく微笑む。

「どうして、とは言わないでね。リオンが聞いてほしくないから聞かない。それだけだから」
「…………はい」

私は愛刀を握る手に力を込め、唇を噛んだ。目の前にいるこの人を守るために強くなりたい、力が欲しい。
そう思って鍛練をしても結局私はこうして夜遅くに心配をかけているのだ。

「…すみません…」

私はそう言うのがやっとだった。これ以上口を開くと、このくだらないちっぽけな不安を、王子にぶちまけてしまいそうだったから。

「謝ることじゃないよ。ねえ、リオン。一つだけ言わせて」
「…はい」

私が返事をすると、王子はうつ向く私を覗き込んで、真っ直ぐ目をみた。

「これからも、よろしくね?」

何が、とは言わず、王子は優しく微笑むと、私から離れくるりと背中を向けた。

でも、私には解った。その一言で十分だった。必死に涙を溢すまいと頑張ってみたが、やはり無駄な抵抗だった。
私は何も言えず、ただ王子の背に、深くお辞儀をすることしかできなかった。

「さあ、今日はもう戻ろう。明日は早いしね」
「…はい」

振り返らず言って王子は歩き出す。私は涙を拭い、王子の後を追う。いつもと変わらず、同じように。



お守りします

たとえ何があっても

足手まといにしかならなくても

あなたがそれを許してくれる限り

私はあなたの側で持てる力全てを




あなたのために





END



リオンと王子でシリアス…になっているでしょうか?
恋愛感情ではなく護衛としての立場でのお話です。

実はこの話はロイバージョンもあったりします。王子の代わりにロイ。こちらは微甘な感じです。



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