精神世界







 暗闇のなか、ただ一人ぽつんと立っていた。

 無音の世界。

「どうして来た」

 強風が吹きぬける。雨も降ってきた。

「わかんない」

 来る気はなかった。だけど、来てしまった。

「分からない?」

 片眉が上がる。

「分からないのに来たのか」

 唇を無意識に噛みしめていることに気づいた。

 無音の世界に雑音が入り混じる。天を仰げば、やはり闇しか広がっていない。

「精神世界に、無意識に来たのならば大物ですよ」

 泣いてるのか? 

 心のなかで問うだけにする。愚問だからだ。なんせここは、彼の精神世界なのだから。彼にしか天気を変えられない。

「ねぇ、沢田綱吉」

 赤い眼と視線が合う。

「貴方はここから抜け出せると思ったのですか?」

 普段の口調に戻って骸が口角を上げた。

「馬鹿らしい。僕から逃げられる者などいないのに」

「むくろ」

 名前を呼べば不快そうに顰めた。

「オレを拒絶してるのか?」

 驚いた様子だったがそれも一瞬だった。

「どうしてそう思ったのですか?」

「だって」

 大空を覆い隠すような黒い雲を見上げる。骸も同じように見上げて、嗚呼と呟いた。

「……拒絶したつもりなど、なかったんですがね」

 雨が眼に入りそうになって瞼が反射で閉じた。そのまま開かない瞼をそのままにした。

 そうして、骸の精神世界から眼を逸らしている自分に気づいて、嗤った。

 莫迦らしい。骸を拒絶しているのは、自分なのに。

 雨音がなくなって、眼を開けたときには元の世界に戻っていて、安堵のため息を漏らした。


END





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