「優しいな、ツナは」
少しだけ、少しだけだからと何度も山本に呼び止められた。その度に苦しくなる。
なんで、どうして。言葉を飲み込んで、山本の背中を擦る。僅かな力で掴まれた袖が震えているのをみて苦しくなる。
「……ごめんな、ツナ」
頷けない。だからといって、首を振ることをしようとも思わない。
どうしたら、いいんだろう。
「……ごめん、まだツナの守護者で居たかったけど」
事情が出来た。だから、守護者の座をスクアーロに渡すと言った。
「……やだ」
「え?」
「やだよ、オレ。山本の事情なんか知らない」
「ツナ……」
「意味わかんない!自己中だよ!」
ああ、ガキだと思った。ガキすぎて泣けてきた。視界が涙で霞む。
弱虫の自分も本音を曝け出す自分も遠い昔に捨ててきた。なのに、また拾ってきた。
「自己中、か」
山本が傷ついたように弱弱しく笑った。
「自己中の続きとして言い訳。俺な、ツナが好きだから、スクアーロに守護者を譲ったのな」
頷く。知っている。だから、驚いたんだ。
好きだから守ってくれると思ったのに。
「もう、ツナ以外見えないから俺は守ることができない」
「うん、うん……ッ」
もう、分からないよ。うんと言ってるのに、オレは必死に首を振ってる。涙が飛び散る。
「だから、ツナ以外が見えるようになるまで、待ってて」
ああ、それは。オレのことを愛さない日が来ると言っているようなものだ。
「……うん、待ってる」
好きだって、オレの想いを知らないままで居てほしい。だから、好きだって言わないよ。
――言ったら、もうオレのところには戻ってこないでしょ?
だから、言わないで待ってるよ。
「絶対、戻ってきてね」
End