一番この世で醜いもの






 
 今日は霧が朝からかかっている。いつもなら運転するのも面倒な天候だから不機嫌だが、今日は違う。

 久しぶりに元教え子に会うのだ。


 ドン・ボンゴレの部屋の扉をノックすると、ツナ直々に扉を開けてくれた。ツナは俺を見た瞬間、嬉しそうに言った。

「背、高くなったね」

 ヘラッと笑う元教え子を一瞥し、口を開く。

「お前は、変わらないな」

 あの日から何も変わっちゃいない。

 お前だけが、時のない世界にいるみたいだ。

「ふふっ」

 ツナの笑い方にママンに会ってるような懐かしさを感じながら、近くにあったソファに座る。

「……ねぇ、リボーン。久しぶりの再会としてさ、一杯やらない?」

「一発やりたいがな」

「下品」

 ツナの口角が上がるのをみて、オレは眉間を寄せた。

「殺り合うか?」

 一瞬、ツナが迷うように視線を泳がせ笑った。

「そっちか」

「下品なのはお前だろ」

「へへっ」

「……で、殺り合うのか、殺らないのか。どっちだ」

 銃口を向けて問えば、ツナはケロッとした表情で言った。

「リボーン、殺られてもいいの?」

「あぁん?」

 フザケンナ。お前にオレが殺られるわけねぇ。

 そう思った瞬間に握っていた銃が地に落ちた。

「……ッ」

 ぐるぐると視界がまわる、まわる、まわる。

「ごめんね、リボーン」

 その声も姿も幻覚だと気づき、舌打ちした。

 元教え子との久しぶりの再会で舞い上がっていたところがあった。だから、気付かなかったのだ。

 骸の幻覚に。

「クハハッ」

 ソファから転び落ち、銃と共に地に横たわるなかで、気味の悪い笑い声が聞こえた。

「愚かな虹。何故気付かなかった? あれだけヒントを与えたのに」

 ヒント?

 そう心のなかで問いて、自答した。

 朝の霧、か。

「次はないと言ったはずだ」

 骸に敗北したときに言われた。もうツナの家庭教師は辞めろ。そして、二度と会うなと。

「どうして、会った」

「……バレねぇ、って」

 思った。

「甘いんですよ、貴方もボスも」

 うんざりだと言いたげな表情に嗤った。

 恐らく、自分とまったく同じ状況下に置かれているボスに向かって言った。

――嫉妬ほど醜いものはこの世にねぇって分かっただろ?

End.





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