ゆらゆらと視界が揺れる。火の熱によって揺れてるのか、水のなかに居るから揺れているのかは定かではないが、確かに視界に入るもの全てがゆらゆらと揺れている。
自分の体を見れば、かなりの長身にがっちりとした筋肉がついている。髪も黒色で短い。そこでやっと、自分が山本武になっていると理解した。
「ツナって、どんなヤツ?」
自ら発せられた言葉に驚く。どうやら自分は山本武じゃないようだ。
じゃあ、誰?
「何をやってもダメなヤツ。俺がいないと何にもできないダメ人間」
口にして恐ろしくなった。ごつごつとした右手を顔の前に出す。右手さえもゆらゆらと揺らめいていて、存在が危うく見えた。その右手の向こうに、沢田綱吉が傷付いたように両手で顔を覆った。
「ツナヨシ」
沢田綱吉ってどんな人間だったっけ。オレが一番知ってるはずの人間なのに、目の前にいる自分がニセモノに見えた。
「綱吉……?」
オレは誰だっただろうか。今、目の前に居るヤツは誰?
「あッ……、山本?」
「……ツナか?」
夢の中での悲劇。他人になって自分を傷付ける自分が醜いことに気付き、外見は山本武で精神は沢田綱吉は顔をしかめた。
綱吉の体にいる山本武は、その様子を見て脳裏に蘇る記憶に口角を上げた。
――沢田綱吉こそ、人類を操る神であり、それを知るのは自分のみである。
その神に、今なった。自分は神に勝った。彼は愚民になりさがった。ならば、彼の心は俺のもの。
ツナ。俺はお前を一度操りたいと思っていた。だから……今この時だけは神にならせてくれ。
神の存在は、思ったよりも危ういものだと山本武は、今初めて知った。
夢から醒めたとき、世界は狂い始める――…。