「……ツナ」
視界が暗くなる。頭上に金色の髪が揺れて、見上げる。
「ディーノさん」
公園にあるブランコに座って、マフィアについて考えた。
「もう十時半だ。帰ろうぜ?」
リボーンが突然、一週間後にイタリアに行く準備が整ったと言い出した。オレは高校二年生だ。だから、一週間後にイタリアに行くということは退学するということになるのだ。
「……オレ、退学なんてしたくないです。せめて、卒業するまで待ってほしいんです」
山本も獄寺くんもクロームも。みんなが中途半端に高校生活を送った後味の悪いままでイタリアンマフィアになるなんて、許せない。
「ツナ」
ディーノさんの低い声に顔を上げる。ディーノさんは複雑そうに笑っていた。
「リボーンが、なんでイタリア行きを早くしたのか、知ってるか?」
「いえ……」
チカチカと電灯が光を失ったりする。そのまわりに虫が飛んでいる。
「焦ってんだよ」
視線をディーノさんに戻す。
ありえない。あのリボーンが、焦ってる?
「恐れてんだよ」
恐れ? 何に恐れる。赤ん坊のくせに最強のヒットマンと呼ばれるアイツに怖いものなどあるのだろうか?
答えはノーだ。だけど、ディーノさんははっきりと言った。リボーンが何かに焦って、何かに恐れている、と。
「……何にですか?」
ディーノさんは不意に目を細めて笑った。
「お前だよ、ツナ」
「えっ?」
「お前を失うことが、何よりも怖ぇんだよ、リボーンは」
最強のヒットマンが生みだした最高傑作。ボンゴレの血を引いた小柄な少年。
「……俺はお前が羨ましい」
ディーノさんはやっぱり、また複雑そうに笑っていた。
「俺はリボーンにそんなふうに大事にされなかった」
「……いやですよ、オレは。リボーンに作られたなんて。最高傑作だなんて、失礼すぎる」
オレは、オレだ。リボーンに作られた覚えなんてない。育て方も雑なリボーンに最高傑作なんて言われたくない。
「……でも、悲しんでもらえるなら嬉しいと思います」
リボーンがいなかった時のオレは、自分に自信がなかったし、自分が大嫌いだった。イジメられることが当たり前だと思った。平凡が大嫌いだった。
でも、リボーンが来てから、平凡だった生活を求めた。それでも、平凡じゃなくなったと気づいても嫌だとは思わなかった
平凡のなかにある非凡さが、いつしか心地良くなっていたから。
「……ツナ、退学のことは俺がリボーンに言うから安心しろ」
そのかわり。とディーノさんはわざとらしく焦らして、笑った。
「お前はリボーンに不安を抱かせねぇぐらい修行と勉強を頑張れ」
ディーノさんの純粋な笑みにオレも笑った。
「さて、帰るか」
「はい」
ディーノさんの大きな手が差し出された。オレは迷うことなく握った。
End