哀歓善戦

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鮮明に、覚えていた。

1本の矢が放たれた、その瞬間を。


シュッ……

グサッ!!


それは綺麗な直線上を進み、的のど真ん中に当たる。


『まあ……ざっとこんな感じだな。』


矢を放った男は得意げに振り返り、それを食い入るように見ていた少年に目を向ける。


『す……すっげえ!!親父さんがそんなすごい人だったなんて……!うわあっ……!』


少年は目を輝かせながら男を見つめていた。


『だから言ったでしょ?私のお父さんは弓矢だけは上手いって!』

『イミテ……誉めてくれるのは嬉しいが、弓矢だけってなんだ、おい。』

『えへへー。』


男……イミテの父がそう言ってイミテの頭を軽く小突くと、彼女はイタズラな笑みを見せた。


『すげえなー……俺にも教えてくれよ!』

『レッド君には剣術の上手いお父さんがいるだろう?』

『うーん…。まあ……剣もいいけど…、親父さん見てたら、弓矢もかっこいいなーって思ってさ!』


レッドはへへっと笑う。


『はは、俺は、レッド君には剣術のが向いていると思うがね。』

『え?どうして?』


イミテが不思議そうにたずねる。


『剣は接近しないと攻撃できないだろう?相手に立ち向かって行く勇気が必要なんだ。レッド君にはそれがある。』

『俺に……?はは、なんか照れくさいなー。』

『じゃあ、弓矢使いのお父さんは勇気のない腰抜けってこと?』

『おいおい、イミテ。ひどい言いようだな…。』


イミテの父は苦笑し、弓矢を太陽の光にかざすと優しく微笑んだ。


『確かに弓矢は遠くからの攻撃のが有利だ。でもな、その分集中力が必要なんだ。もし外してしまったら敵に自分の居場所が気づかれてしまうし、最悪、仲間を危険にさらしてしまうこともあるんだ。』

『仲間を……?』

『ああ。例えばレッド君のような剣使いが敵と戦っているとしよう。そこに援護のために弓をうつ。戦う人はもちろん動いているから、もしかしたら仲間に当たるかもしれないだろ?』

『仲間に殺されるなんて嫌だ…。弓矢って怖いよ…。』


イミテの父は、すっかりおびえてしまったイミテの頭を優しくなでた。


『だからそんなことにならないために、弓矢使いには冷静な判断力と、どんな時も平常心を保っていられる強い心が必要なんだ。』

『へー…』

『じゃあやっぱり親父さん…すごい人なんだな!』

『ははは。だいぶ練習したがね。』

『決めた!』

『『?』』


イミテは父の弓矢をつかみ、すっくと立ち上がる。

そしてタタタ…と少し走ったところでクルリと回るようにふりむいて言った。


『私も弓矢使いになる!お父さん!教えて教えて!』

『ダメだ。イミテはまだ幼い。遊びじゃないんだぞ?』

『そんなの分かってる!』


イミテの勢いに2人は少したじろいだ。


『私もね、強くなってレッドを守ってあげるの!』

『お、俺を……?』

『うん!頑張るから待っててね!』


『イミテー!ちょっと手伝ってちょうだい。』

『お母さんだ!はーい!』


イミテは元気よく走っていった。



『はっはっは!よかったなレッド君!イミテが守ってくれるそうだ。』

『親父さん勘弁してよ…。男が女に守られるなんてかっこ悪いじゃんか。』

『あっはっは!ごめんな。イミテは思いたったら止まらないところがあるから。だから、レッド君…』


『親父さん!』
 

今後はレッドがすっと立ち上がり、剣を構える。


『俺がイミテを守ってやるよ!だから心配すんな!』

『……頼もしいな。まかせたぞ。』

『ああ!まかせろ!』


レッドはへへっと、彼らしい元気な笑顔を見せた。


『レッド!レッド!』


イミテがたたっとレッドのそばまで駆け寄って、彼の腕をつかむ。


『さっきお母さんから聞いたんだけどね、オーキド長老のお孫さんが帰ってきたんだって!会いに行こうよ!』

『孫…?』

『ああ、確かグリーンという子だったな。お前達と同い年の男の子だよ。』

『同い年!?やったやった!レッド早く行こう!!』

『え…ちょっと待……』


イミテは構わずレッドの手をつかみ。


『お父さん!行ってきます!』


元気よく駆け出した。


『気をつけてな。』

『はーい!』




手をにぎったまま、嬉しそうに笑うイミテを見て、レッドは呟いた。



『俺が…守ってやるからな。』

『……ん?何か言った?』

『いや。何でもない。』

『?』




俺が守る

俺は、確かにそう誓ったんだ


どんなことがあっても、
そばにいるって、

心に決めてた



ー…たった1人の、女の子



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