空合わせの恋路3章
□3話. 特別の証
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違和感を感じていると、彼が決定的な言葉を口にした。
「他の男に目移りしたバツとして、明日のデートは俺の行きたいとこ行ってもらいますからね!」
嫉妬ってそういう嫉妬!?
「ねえ、待って。その言い方いかにも私は君のものみたいな感じになってるんだけど、おかしいよね?それと君の中でデートすることになってるみたいだけど、それもおかしいよね?」
「え?今さら何言ってんスか。俺に興味があるからここまで付いてきたんでしょ?つーか君って呼ぶのやめてください。ガキ扱いされてるみてえで嫌っス。」
「ああごめん、ついびっくりして…じゃなくて!!付いてきたって、てゆーか興味って……あのねえ…、まあ付いてきたのは間違ってはいないけど…!」
決してそんな、恋しちゃったからなんて理由じゃないですと心の中で思いっきり否定する。
はあ、と思わずため息がもれた。
その反応が気に入らなかったみたいでゴールドは少し口をとがらせて言う。
「じゃあなんでっスか?」
「なんでって、」
「なんで俺の近くに今いるんスか。あ、ツンデレで素直になれないだけ?」
「違う!」
「んな否定しなくてもいいじゃないっスか。俺はイミテ先輩とデートできると思って楽しみにしてたのにー。」
全然残念がってないように見えるのは気のせいじゃないよね、うん。
昼間だって相手なんて誰でもいいからナンパしたくせに。
とんだ女好きだ!
「オイラも気になってたでやんす。」
「え?」
「まさかイミテさん、本当にゴールドのこと好きになったんじゃないかって、」
「違う違う!ゴロウくんまでやめてくださいよ!私はその日に出会った人にほいほい惚れるような女じゃありません!」
「そこまで否定するなら理由教えてくださいよ。イミテ先輩。」
ギロッと、金色がかった瞳に捉えられる。
「…ひ、秘密。もうすぐ分かるよ。」
「んだよー、やっぱりツンデレかよー。」
「あーもう!違うって言ってるのに!」
なんだか無駄に体力使うんですけど、このやりとり。
ゴロウくんは苦笑して、ポツリと別の話題を話し始める。
「ゴールド、思うんでやんすが…、」
「なんだよゴロウ。」
「なんか急にいろんなコトが起こりすぎるんじゃないでやんすか?なんででやんしょう?」
「ウーンそーだなー。」
あ、ピジョの羽音が聞こえた。
それと、足音も。
「それは運命が────、動き出しているというコトじゃよ。」
「あ…あなたは!オ…、オーキド博士!!?な、なぜここに!!」
博士、レディバ、オドシシ、そしてピジョ。
ピジョが私のところにパタパタと飛んできた。
「案内ありがとね」と小声で告げて頭を撫でてあげると、ピジョは気持ちよさそうにのどを鳴らす。
「……なんスかいきなり、俺はエライ博士に用なんかないっスよ。」
「ゴ、ゴールド!!」
「キミにはないかも知れんが、このわしにはキミに用がある。だから彼女に君たちのことを見張っておいてほしいと頼んだんじゃ。」
「え…!」
ゴールドが驚いた様子で私の方を振り返る。
「そういうこと。」と、笑顔とともに返しといた。
ああよかった。これで妙な恋愛疑惑は晴れた。
「用ってなんスか。」
ゴールドはますます仏頂面になり博士に聞く。
これでも権威のある偉い研究者なのに。
「キミが対決した少年は…もしかしてこんなものをもっていなかったかい?」
博士はそう言って白衣の内側から…ポケモン図鑑を取り出した。
ウイーンと静かな音を立てて画面とボタンの部分のフタが開く。
いいなあ、私が今持ってるのより見た目がだいぶかっこよくなってる。
「そ…それはなんでやんすか!?」
「わしが作ったポケモンの生態を記録していく機械……新ポケモン図鑑!!!」
「……。で、俺が対決したヤローがそれと同じものをもってたかってことが聞きたいんスね。ああ。たぶん持ってたっスよ。たしかそんなかんじのものをこそこそと出していやがった。」
「!博士。」
「うむ、これではっきりしたようじゃな。わしはこれと同じものを3つ作った。だが3日前そのうちのひとつが…消えた!!」
「ええ!!?…てことは!」
「ウム。わしのところからはポケモン図鑑が、ウツギ博士のところからはワニノコがうばわれたんじゃ。おそらくおなじ犯人によってな!」
「ポケモン図鑑が奪われて犯人を追いかけたときこごえるかぜ≠してきました。さっきウツギ博士の研究所の床もこごえるかぜ≠ナ凍らせてあった。これに加えてポケモン図鑑…間違いないと思います。」
ポケモン図鑑、同一のタイプのポケモン、そしてなるべく姿を見せない行動…。共通点は多い。
ゴールドが戦ったっていう少年で間違いないだろう。
ロケット団なら、大勢で、しかも堂々と姿を見せて攻撃してくるもんね。
「オーキド博士のところっていうと…。」
「そうじゃゴロウくん。キミにおつかいをたのんだ場所。ここヨシノの郊外にあるわしの第2研究所からじゃ。ラジオ収録があってジョウト(こっち)へ来たときに泊まる例の…な。」
「あ、あのね、ゴールド。オーキド博士の本当の家はカントー地方のマサラタウンってところでジョウトには仕事で来てて、むこうは孫娘のナナミさんが守ってて…。」
「そんなこたぁ俺には関係ねーんだよ、ゴロウ!!」
一生懸命説明するゴロウくんをばっさりと切り捨てるゴールド。
「それよりだオーキドのじーさんその『図鑑』…つーやつは、もしかしてなにか戦いに役に立つ仕組みとかがあったりするんじゃねースか!?」
お、興味を持ったみたい。
さっきまで他人事みたいな感じだったのに。
おもしろいものを見つけたイタズラっ子みたいな顔つきになってる。
…ああ、嫌な予感がする。
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