空合わせの恋路3章

□3話. 特別の証
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「…ああ。ポケモンバトルでは相手のレベルが分かるし、技なども調べられる。」

「やっぱしな!あの時ヤローは力量(レベル)や、それに対する自分のわざをチェックしようとしてたのか。」

「ともかく…、ゴールドくんだったね。キミにたしかめることができてよかった。さてイミテ。どこか建物に入ってロケット団のことを…」

「待ってくれ!!」


歩き出そうとしたオーキド博士をゴールドが呼び止める。


「俺、あんたに会ったらクルミちゃんのサインもらおうと思ってたんスよ。アイドルのクルミちゃん。いっしょにラジオやってるんスよね!?」

「ゴ、ゴールド。」

「でもね、今はいらねえ。もっと別のものが欲しくなったっス。」


ゴールドはびしぃ!と指差して言う。


「その『図鑑』だ。そいつをオレにくれ!」

「な…なんじゃと─────!!?」

「あらら…」


やけに興味持ってたと思ったら、やっぱりこうなったか…。



「なななはなんてことゆーでやんすかゴールド!!すみません博士!ゴールドは今日いろんなことがあって混乱してるんでやんす。」

「いや、俺は正気だぜ、ゴロウ。」

「……。」


ゴロウくんがわたわたと取り乱して、ゴールドがさらりと返す。

博士は落ち着いた口調で諭すように言う。


「この図鑑は3つしかない上にひとつうばわれてしまっている。それにキミにあげるため作ったわけではない、研究のために作ったのだ。わたすことはできんよ。」

「ああ、そんなこと百も承知っスよ。でもね、俺もヤローをとっちめるって決めちまったんだ。」


意気揚々と彼は続ける。


「もう変えられねえ!これからヤローと対決するってのにヤローだけ便利なもんを持ってやがるのは不利だ。だから欲しい。俺はなんとしても決着をつけてぇ。理由はそれだけっス。」

「…子供か。」


平然と持論を語るゴールドに思わず呟いていた。


「他の人が持ってて、自分は持ってないから欲しい。アイツは持ってるのにズルい。…なーんて。駄々をこねてる子供みたいだね。」

「は?なんだよ、っ」


私の言葉が気に障ったのか、彼は私を睨みつけようとした…けど、直後、うっと言葉を飲み込むような表情をした。

たぶん私の表情がすごく冷たかったからだろう。

自分でも分かってる。今私、蔑んだような目をして彼を見てる。


分かってる。ゴールドが全部悪いワケじゃない。

彼は何も知らなくて、ただ本能のままに欲しいと思って口にしただけだ。

でも、どうしてもそれを見過ごすことができなかった。


ポケモンリーグの時。
大勢の人の前で。

『あたしだってマサラの人間だもの!3人とおんなじことがしたかったのよ!!博士にポケモンをもらって、図鑑をもって冒険の旅にでて…。』

ブルーは図鑑が欲しかったと、涙をこぼしていた。


コレ(ポケモン図鑑)は簡単に手に入るものじゃない。

そんなに薄っぺらいものじゃないんだよ。



「ア、アンタに言われる筋合いはねえし。」


私の言葉なんて全く届いてないんだろう。

きっとただの口うるさいお説教、としか捉えられてない。


彼はふいっと顔を背けて、私と話をすることを避ける。


「残念じゃが、わしもその子と同じ意見じゃ。ダメといったらダメだ。」

「じゃあちょっと借りるだけ!」

「ダメだ!!」

「もう1コ作ればいーじゃないスか!!博士なんでしょ!?」

「そんなすぐできるか!!」

「お願い!!」

「ダメ!!」


博士とゴールドのやりとりが続く。

ああ…博士の機嫌がどんどん悪くなっていくのが手に取るように分かる…。


「ハアハア、なんじゃキミは、自分の都合ばかりで!いいか、今までわしのところから図鑑を持って出発したトレーナーは、きちんと研究に必要なデータを集めてくれたし、人の役に立つような働きもした実力のある少年、少女じゃった!現に、ここにいる彼女もそうじゃ!」

「え…?」


ゴールドが私の方を見る。

私の場合研究に必要なデータを集めたかは微妙だけどねっ。

手持ちメンバー以外は捕まえないから捕まえた数、一向に増えてないし。


「イミテは数年前、悪の組織ロケット団を壊滅に追いつめたのじゃ!それと前回ポケモンリーグ準優勝者で、今研究の手伝いもしてくれとる!」

「ロケット団だかなんだか知らねえが、ポケモンリーグだって?はっ。しょせん準優勝止まりだろ?俺だったらんなもん軽く優勝できらあ!」


フン、と鼻を鳴らして彼は言う。


「要は実力を見せりゃあいーんスね!!よし!!エーたろう、ひっかく=I!」

「ち、ちがう!そういうイミじゃ…、やめろ、オドっち!レディっち!!」


エイパムの攻撃をもろにくらって、オドシシが怒り、レディバもそれにつられて怒り出しす。


「博士、オドシシにニックネームつけたんですね!すっかり仲良しじゃないですか。」

「イミテ…、なんでお前はそんな冷静なんじゃ。こんな時なのに、」

「こんな時“なのに”?冗談。」


隣にいるピジョが興奮しているのが雰囲気で伝わる。

決して表情には出さないけど。

それは私も一緒。

正直、今すぐにでも殴ってやりたいぐらいにムカついてる。


私達の戦いまでけなすなんて、何様だ。
何も知らないくせに。



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